竹中平蔵氏を追いかけた『市場と権力』が面白い
フォローしている人のRT経由で竹中平蔵氏を追いかけた『市場と権力』という本を知った。非常に為になる本だったので、本書で得た気づきをまとめたい。
『市場と権力』という本について
注意点と読み方について
本書を読むにあたっては数点注意がいる。
- 著者は竹中平蔵氏に好意的ではない
- 本人へのインタビューはなく周囲の人物へのインタビューとその他公開資料が中心
- 経済学の専門家が書いたものではない
上記のような理由から「竹中平蔵の政策の良し悪しを判断する目的」で本書を読むのではなく、「竹中平蔵氏のように政治に影響力を持つにはどうしたら良いか?」という視点で読むと得るものが出てくる
竹中平蔵氏はどのレベルから権力を持つに至ったか
彼は二世議員のように生まれながら政策に関与できる有利なポジションに居たわけではない。低所得者でもないが、大企業のサラリーマンとは同程度に収まる可能性があったレベルから大臣にまでのし上がっている。
幾つか彼の不利なポイントを挙げる。
- 和歌山県和歌山市の靴職人の息子
- →この時点で地元で一生を終えるパターンもあった。
- 一橋大学経済学部
- 日本開発銀行に入社、さらに地方に飛ばされる
- →安定した公共にやや近い銀行。そのまま定年退職を迎えるという人生もあったろう。
大企業に何とか入った普通のサラリーマンと同じような経歴である。しかし彼はそこに留まらずに、上を目指した。
竹中平蔵氏のジャンプアップ
主なジャンプアップのポイント。それぞれのターニングポイントで戦略的に努力していることが本書から読み取れた。
- 大学時代のサークル友達の親が著名人:誠実さから人脈を作る。
- ハーバード大留学:日本経済に詳しいという立場を有効活用しアメリカの経済学者と人脈を作る。
- 大蔵省出向:卒なく業務をこなすことアメリカの経済学者と交流があることで信頼を得、人脈を広げる。
- 大阪大学助教授:既存の人脈を活用し信用のある肩書を得る。その後、博士号取得。
- 東京財団のインテレクチュアルキャビネット:政界との繋がりを得る。
- 小渕内閣の経済戦略会議に参画:政策に参画し、卒なく業務をこなす手腕で信用を得る。
- 小泉内閣入閣:政争に専念する小泉氏のサポートとして大臣をこなし続ける。
特に参考になる点
竹中平蔵氏のジャンプアップのうち、特に重要だと思われるところをピックアップしたい。
- 得意なスキルを有効に使う
- なりふり構わない
得意なスキルを有効に使う
竹中平蔵氏の得意なスキルは、2つだと理解した。
- 卒なく業務をこなす
- スピーチが上手い
1.「卒なく業務をこなす」
人望を得るには様々な手法があるが、竹中氏の場合は、「卒なくこなす」ことで他人を助け、その恩義で職業斡旋をして貰ったり、重要な任務を任されるようになっている。
- サークル友達の親の家庭の仕事を手伝う
- 金融庁で忙しい上司の仕事をサポートする
- 政争にしか興味がなく政策に疎い小泉氏をサポートする
人によって能力は「愛嬌」かもしれないし「泥臭い業務の引受」かもしれないし「腕力」かもしれないが、どうやってキーマンの役に立つか?という視点は、社会人の若手やセールスパーソンの得意先への入り込み方などの参考になる。
2.「スピーチが上手い」
一度だけ竹中平蔵氏のスピーチを聞いたことがある。とてもわかり易く、高くても講演をお願いする価値が十二分にあると感じた。他にも以下のような場面でその能力を発揮している。
- 論文のデータ分析は仲間に依頼し結果の解釈に徹する
- 会議を取りまとめるのが上手く、会議体の進行のポジションを得る
- 演説が上手く大臣向き
など、研究者時代から政策担当者時代まで、彼は自分の果たせる役割をよく理解した上で他社貢献している。
自分の特技でどう他人に貢献し信頼を得るか?、自分の特技でどう社会における役割を確保するか? ということに自覚的でなければならないと痛感した。
なりふり構わない
何かを失ってでも徹底することは大事だ。付き合う相手を選べ、八方美人になるな、という一般的な助言とも重なる。竹中氏の徹底ぶりは例えば以下のようなエピソードだ。
- 単著を出すために共同研究者との縁を切る。
- 郵政族を解体したい小泉氏のために、既に財政投融資が解決済みで政策的に意味のなかった郵政民営化を完遂する。
- アメリカの経済学者と連携する政権の信頼を得るために、郵貯・かんぽの分割にこだわり、管轄大臣の麻生太郎氏に内密のままプランを立てて小泉首相の合意を取り付ける。
- りそな銀行を破綻させるために、友人を通じて朝日監査法人に意向を伝え、監査の方針を変えさせる。
一般人のレベルを超えている例で自分のことに照らし合わせるのが難しいかもしれない。竹中氏の話からはレベルを下げて、例えば広告業界では以下のようなことがある。
- 現場担当者やキーマンに競合の代理店が信頼されていれば、その上司にアプローチし代理店選定の企画競争(コンペティション)を実施させる。そのためにゴルフや会食を設ける。
- 重要なクライアントの社長・役員の子息を自社に必要ない人材であっても入社させて恩を売り、取り扱い高を維持する。
どのような業界でも大なり小なりあるはずだ。特に、自分が諦めたポイントでプロジェクトのクオリティが決定してしまうという経験は、多くの人にあるのではないだろうか。
終わりに
竹中氏のテクニカルな部分にフィーチャーしてしまったが、彼には「のほほんとした正社員のあぐらをかく者を見返す」というパッション或いは執念がある。”嘗てなら正社員になれたかもしれない人”や”破綻扱いされた銀行マン”など彼の政策の裏で損をした人も多く、”今なお正社員の人”からしても彼が政策に関与するのは脅威だ。しかし、本書によると竹中氏は政策に関与する前のシンクタンク時代に既に長者番付に載っており、私腹を肥やす必要はなかった。
何かを成し遂げる人には、並々ならぬ闘志があるものだ。