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Saltburn感想

最近この人のお勧めする映画を時々観ていて外れがない。その中で観た『saltburn』という映画がなかなか心臓を抉る内容だった。忘れないうちに雑多な感想を残しておこうという目的で書いているので、ネタバレ前提の投稿になるし、見て貰うための推薦コメントというよりも個人的メモ書きのような投稿だ。

Saltburn

Saltburn

  • Barry Keoghan
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どんでん返し痛快コメディではない

確かにこの作品は最後にちょっとしたどんでん返しがあり、人によっては「庶民が貴族階級に一矢報いる痛快コメディだ」と解釈する人もいるだろう。しかし自分には、”痛快”というよりも「最後までオリバーが孤独に見えるように描写されていた」という印象の方が強い。人が死んだ後のオリバーは本当に哀しそうにしているし、最後の裸踊りのシーンも画面は暗いからだ。勿論、本当に「友達になりたかっただけ」を描くつもりであれば、一つめの事件で話を終えていただろうから、アンビバレントな主人公を描きたかったと解釈するべきだろう。映画レビューサイトでは”どっちつかずでモヤモヤした”というコメントもあったが、まさにそれが正しい受け止め方だと思うし、そのモヤモヤが持続することで記憶に残る映画だと思う。

とにかく気持ち悪いから平静で観ていられる

オリバーは挙動不審で仲間外れの陰キャで、最初にできた友達が病的で、、という最悪の境遇からスタートする。”既存の仲良しコミュニティの仲間に入れてもらえない”という描写はコミュニケーション能力が低い人にとっては(いや普通の人はみんなそうだと思うが)心をえぐってくる描写だ。自転車を貸してあげる過剰な優しさだとか、自暴自棄になっている友達の異性友達とワンチャン狙おうとする卑怯さだとか、オリバーの人との距離感の異常性から始まるオリバーの気持ち悪い描写は、徐々に気持ち悪さが逸脱し始め、友達の姉とできちゃう・友達のお母さんをたしこむ・バスタブを舐める・実は噓ついてた等々にエスカレートしていく。これは「何か普通じゃねーなこの主人公」という伏線にもなっているが、「こいつは自分とは違う、異常な奴だ、自分はこうじゃない」と”もしかすると自分だったかもしれないオリバー”から”自分とは違う異常なオリバー”へと変わることで、心が抉られていた視聴者からすると、感情移入せずに客観的に受け止めることのできる主人公へと描写が変わっていく。最後までオリバーがただのコミュニケーション能力が変な人のレベルだったら、もっと重たい作品になっていただろう。おかげで安心して見ることができる。

いとこの役割も大きい

ファーリーという”いとこ”が出てくる。オリバーのことが最初から嫌いだしフェリックスを取られるのもムカついているし仕方なくオリバーとも適度に会話するという屈折した心理状態におかれるオリバーもまた、仲の良い友達に別の仲の良い友達ができてしまうことへの嫉妬というよくあるケースの描写になっていて、コミュニケーション能力が低い人の典型のようで重たいのだが、オリバーとファーリーの対立軸があることで、この先どうなるのだろうか?というわかりやすい描写になっている。

変人家族が後半のクッションになっている

何もかも完璧なフェリックスと違って実家の家族は全員異常だ。使用人もロボット過ぎるし、母親は距離が近すぎるし、父親もズレすぎているし、姉もスキモノ過ぎる。毎日ダラダラと誰も仕事をしない(貴族だって仕事はするだろ)様子や派手すぎるパーティーなど、非現実感の高いシーンが現実と非現実の境を曖昧にしていくことで、後半の狂気にスムースにつながっているのだが、急に変にならないよう家族も変人にしておくことで、効果的なクッションになっている。 あと、社会人生活が長くなると、ちょっと距離が変な危ない人、というのもときどき会うので、これはこれで共感ポイントでもある。

映像も音も選曲もいい

脚本の流ればかりの感想になってしまったが、映像も音もいい。異様な作品なのに奇をてらったカットはなく全体的に落ち着いている。冒頭の入学シーンで必要以上に周囲の賑やかな様子が描かれている対比構造もエキストラの費用を考えるとなかなかのコストをかけて作っているし、気がつきにくいがどても凝ったシーンばかりで、とてもバランスがいい。 大学シーンやサマーバケーションで流れる明るい選曲や重いシーンのBGMの組合せもよくできていると思う。

2周するには精神的な負担が多いのだが、なかなか印象深い作品だった。