広告代理店出身の人が記事で「マーケティング」と言うとき、大抵は「プロモーション」のことにとどまっています。ビジネスを経験したことがない学生にとって、広告代理店がマーケティング業務をしていると誤解して入社してしまのは良くないことだと思います。
広告代理店は「マーケティング支援会社」である
最近極めて赤裸々な本が出版されました。広告代理店の営業マンの実感からも全くズレを感じない優れたヒアリングレポートです。
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この中で「事業会社」と「支援会社」という区分がされていましたが、言い得て妙な表現だと思います。
例えば、広告代理店ができないマーケティング業務
- ブランドのポートフォリオを変更する(生産する商品ラインナップを削る)
- 価格設定を変える(値引きしない)
- 流通チャンネルを変える(卸との条件を変える)
このような業務は「事業会社」が行うことで、せいぜい関わるとしたら「経営コンサルタント」が協力する程度で、「広告代理店が絡む」ということはありません。
マーケティングを4つの軸に分けることがありますが、 - Product - Price - Place - Promotion
このうち広告代理店が関わるのはプロモーション「だけ」となります。 1
何ならプロモーションの中の一部しかやってない
もっと言うと、 - 調査 - 店頭プロモーション - 広報
など、プロモーションの領域であっても、事業会社から広告代理店を通さずに、専門の支援会社に発注されることのケースの方が多いとすら言えます。2
そもそも「利益相反」している
「マーケティングを担当している」と嘯く広告代理店の人にとって最も厳しい点はここでしょう。
広告代理店は、 - ペイドメディア(広告枠)を調達したときの媒体社へのバックマージン(コミッション) - 広告等に使用する制作物(例えばテレビCM)やキャンペーンの運営管理などの代行業務における管理手数料
などが収益源です。
本当にマーケティングをする事業会社の立場であれば、広告を買うお金は一円でも安くしたいですし、広告制作も自社内で制作して完結し人件費に見合うなら外注する必要はありません。
となると、自ずと広告代理店と事業会社は利益が相反することになります。3
では一体、広告代理店は何をしているのか?
プロモーションにおける - 広告クリエイティブ制作 - 広告枠買付け - キャンペーンの設計や事務局業務
が主な仕事です
実行するのは別の人
ただし、広告代理店の中に「デザイナー」や「監督」はいません。 - 広告クリエイティブ制作→制作会社(例えば、葵プロモーションなど) - 広告枠買付け→媒体社(例えば、フジテレビなど) - キャンペーンの設計や事務局業務→各種プロモーション協力の会社(いっぱいあります)
と全て実行部隊は外部にいます。
行っているのは「プロジェクトマネジメント」
事業会社と制作会社・媒体社・協力会社の間に入って何をしているのか?というとプロジェクトマネジメントです。
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- 事業会社の中で決裁権限を持つ人は誰か?
- その人にプロモーション企画を通すために必要なリサーチや資料は何か?
- 宣伝予算の中で最適な媒体費・制作費の配分は何か?
- 商品ターゲットを踏まえた制作物のディレクションは?
- キャンペーンスタートまでの進行スケジュールは?
- 媒体社の広告原稿審査・タレント事務所の意見・監督の意見など途中で意見が割れそうなポイントは?
といった、広告制作の関係者の利害関係調整とリソース配分とスケジュール管理、という業務になります。全て事業会社で内製できるのであればしてしまってよいのですが、4 手が回らないので広告代理店に外部発注している、ということになります。
何のスキルを持ちたいか?
大企業であればあるほど広告代理店への依存度が高く、ハズキルーペのような特殊な事例を除けば、テレビタレントを起用した広告制作は、広告代理店や制作会社でないと企画立案の機会はないでしょう。一方で、マーケティングをしたくても大企業の中ではほぼ関係者への説明で一日が終わる、ということも稀ではありませんし、事業会社では定期的な異動もつきものです。
世の中にでるニュース記事ではついつい広告会社のクリエイターなど一部の職種の人の露出が目立つため、大半の人が何をしているのかはつかみ取りにくいと思いますので、少しでも学生の参考なれば幸いです。
その他、最近の中でマーケティングの実態がわかりやすい本がこれです。事業部を畳んだり、経営コンサルティングに近い領域もマーケティングの仕事です。
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製品の開発コンセプトで協力することはありますが、実際にどのような材料で?何なら量産化できて価格も抑えられるのか?そういった製品企画開発の本流ではなく、女子高生をアサインして意見を貰った、とかそういう関わり方が限度です。↩
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もちろん、統合的なキャンペーンという形で「一時的に」係るケースはあります。 ↩
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因みに、少しでも広告代理店に払うお金を少なくするために、Web広告用のバナーを内製したり、TVCMの納品用テープのプリントをスタジオに直発注したり、TVSPOTの買い付けで相見積もりをして1%でも多く調達を値引きする、など様々な企業努力を事業会社はされています。↩
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因みに人数の少ない中小企業ほど全て内製でやってしまいます。記者会見の会場抑え・進行台本制作・メディアキャラバンなど自社でやってしまうところは少なくありません。↩