エア・フランス(エールフランス)の広告を見ると如何にデザイナークリエイターが重要かわかる
最近この広告によくヒットします。自分はテレビが家にないので記事を見ているときにスクロールしていくと映像が流れ出してマウスオーバーすると音が出てくる、というパターンです。
Air France - 自宅にいるようにくつろいで (30s)
しかしこの動画、よくよく考えるととても重要な、日本の広告業界のある種の課題を浮き彫りにしているものでもあります。
訴求内容を抜粋してみる
訴求されている内容を字に起こすと以下です
- 機内についてすぐにゆったりできる/くつろげる
- 一流の料理や和食から好きなものを選べます
- 日本語の機内誌があります(動画内のナレーションは”日本語のエンターテイメント”)
- 寝るときも安心。
- プライバシーが保たれて
- フルフラットのベッド
そして、「自宅のようにくつろげる」という締めのコピー。
ところでこれ、上記の訴求ポイントだけオリエンされたら、めっちゃ辛くないですか??
ナレーションのテキストだけ読むと、たいした差別化ポイントではありません。ファーストクラス(乗ったことないですけど!)であれば、どの航空会社もゆったりしているでしょうし、食事も色々あるでしょう。日本語の機内食があるのかどうかはわかりませんが、あるんでしょう。
このような訴求ポイントのメモ書きを貰って、普通のマーケッターなら頭を抱えるはずです。
思考実験
凡人営業がよく知っている映像制作会社に発注する場合
上記オリエンを貰ったとして、凡人の営業が映像制作会社のプロデューサーにオリエンして作ると、恐らくこんなフィルムになります。
- 機内を実際に撮影して、座席が一番広く映る角度を探し、「くつろげる」「ゆったり」を説明する
- 場合によっては、座席と座席の距離を「__cm」と矢印と共にテロップを映像にのせる。
- 一步頑張って、抽象空間で前の座席と後ろの座席を置いて、当社比で何%も広くしました!と座席の距離を広げるシーンを撮る
- どんなに沢山の料理の種類が選べるか?ジャンル名を並べて文字で圧倒させたり、料理の鮮やかな写真を撮ってスライドショーにする
- 機内誌は日本語版もあるよ!とタレントさんにニコパチさせる
- 寝るときにどうプライバシーが確保されているのかファクトを集めて絵に落とす。
- 何なら、「○○もついて、○○もついて、更に安心!」なんて言っちゃう
etc…
極めて説明的な、フィルムというよりも説明動画になることは用意に想像できます
マーケッターが入ってアドバイスする場合
凡人の営業だけではこなせない!とマーケッター的な人を入れたとします。一般的なアプローチだと以下のようになるでしょう。
- 他社のサービスを確認する
- エア・フランスの差別化ポイントを探す
- 場合によっては乗って確かめてみて何か他と圧倒的に違うところはないか?探す
- ファンの声をソーシャルやアンケートや調査から集めて、何が支持されているか?を改めて調べる。
- 例えば、フルフラットのベッドの寝心地が本当に良いし、支持している人も多い!と判明して、それを全面に出す
- フルフラットベッド訴求メインの動画制作を制作会社にオリエンし、様々な案を作る
訴求対象が一つに絞られたことで映像制作会社もちょっと腕の見せ所が出るでしょう。もしかしたらフカフカの象徴のようなものを探してアナロジーにするかもしれませんし、「家のベッドより快適!」とか、「寝ている間にもう着いちゃった!」みたいな、色んな方向を探って、もしかすると中にはスマッシュヒット動画もあるかもしれません。
しかし、エア・フランスのブランドイメージに残るのは、”なんかベッドが気持ちいいらしい”だけです。
クリエイター的素養の人が必要な理由
クリエイティブディレクター/アートディレクター/デザイナーといった人が入っていたらどうでしょうか?
彼等の中には、営業やマーケッターの持っていない引き出しがあり、訴求ポイントの整理や再解釈といったことに無駄な時間を使わず、この広告のような美しい映像と”あっ、エア・フランスなんか良さそう”というブランドを残せるのです。
- オシャレなカラートーン
- 擬似空間で座席を一つに絞って表現する
- これでくつろげる広さが、ウソですが、伝わります
- コートを投げ捨てて勝手にフックにかかるようなシーン、これもウソですが、自宅のようにくつろげる、を象徴的に表現できています。
- シームレスに繋がったように感じる映像
- 足をぽんと叩くと変わるスリッパ
- 枕とともに倒れ込んだり、かってに布団がかかったり、(最近は凄い撮影技術ですね。)
- 直接的でない表現
- 和食もオーダーできるよ、ということの為に、星型の寿司を窓の外の景色から取り出させる。
- フランス語の機内誌が一瞬で日本語に変わる。
このコンテを思いつけるのはなかなかの才能ではないかと思います。少なくとも営業の私はそう思います。
一級のクリエイターであれば、マーケッターのように訴求ポイントを無理に差別化させたりしなくても、カラートーンで幾らでも魅力的に見せたり、ちょっとしたアナロジーで良い感じに見せたり、という 引き出し が頭の中にあるので、変に訴求ポイントを捻じ曲げることもありませんし、営業のように全部を説明ビデオのようにしてしまうといったブランド破壊行為にも陥りません。
全ての役割をデザイナーに負わせるのは限界がありますが、やはりこういう事例を見るとデザインの素養があるかないか?というのは、今後のマーケティング担当者には避けられないポイントだと感じました。
AIの可能性について
おまけですが、最近こんな記事が話題になりました。
まだまだ本格運用は先なのかもしれませんが、
AIによって人間が勉強する以上の大量の引き出しを持たせる
ということができたら、叩き台やアイデア出しに貢献してくれるのではないでしょうか?
クリエイターの素養がない人にとってはある種、協力な外部の協力者が現れたと考えても過言ではありません。例えば既にテクノロジーが広告代理店マンの作業の代理をしてくれているケースがあります。
クリエイティブな分野でも、ロゴを勝手に作ってくれるサイトだとか、広告賞を勉強してコンテを出せるマッキャンエリクソンのロボだとか、徐々に増えています。人間の手の届かないところ或いは人によっては苦手なところを上手く補完してくれると良いですね。