「ブラック・レイン」CGが無かった頃の映像美/ハリウッドらしからぬ丁寧な脚本
昨日、高倉健さんの追悼の意味もこめて「ブラック・レイン」を初鑑賞しました。
これは、いいところを挙げたらキリがない程、素晴らしいので、まだご覧になっていない人は是非見て下さい
・80年代末の日本の工業力が良く表現されている。
・舞台設定の選び方が素晴らしく、日本での撮影なのにとてもハリウッドらしい大迫力の映像。
・役者の演技が良い。高倉健、松田優作、他にも勝新太郎の兄 若山富三郎などが名演。
・2種類の考え方に生きる者達の対比と成長の物語
・伏線とその回収の美しさ、様式美。(*ほんと凄いです)
等々、とにかく総合して完成度が高い作品でした。
僕は、リドリー・スコット監督作品はブレードランナーもエイリアンも特に好きではありませんでしたが、「ブラック・レイン」はとても良い作品でした。もっと早くに観ておくべきものだったと後悔しています。
*以下、ネタバレも含んで、気がついた所をメモします
< 「ブラック・レイン」の映像美 >
・朝焼けに集合するバイク
・空を飛ぶ飛行機の銀色のボディの反射
・夕焼けに映える日本の工業地帯
・電飾看板がごった返す夜の大阪の町
・剣道の稽古シーン
・町中で存在感を放つ大坂城
・製鉄(?)工場の大量の自転車・トラック・大きな音の出る工場ライン
・朝焼けの棚田
等々、とにかく選ぶシーンがどれも美しく、かつ、それが最も映える時間帯の陽射しの中で撮影しています。
今日ではCGが進化し、先日観た「トランスフォーマー ロストエイジ」では、どこからどこまでが本物でCGなのか区別のつかないほどの進化を見せていましたし、飛んで行く瓦礫やスローモーションの巨大ロボットなど、CG全盛期だからこそ撮れる迫力のある映画でした。
しかし、改めて「ブラック・レイン」の1989年頃の映像を観ると、CGでは到達できない自然光を利用した美しい映像がそこにはあり、CGで何でもできることによって、却って、1シーン1シーンの最も美しくかつ演出意図が伝わる映像、を考える力を失っているのかもしれません。
是非、二作を見比べて、アナログ時代に獲得された人類の資産を忘れないようにしたいものです。
< 美しい対比構造 >
・堅苦しいルールに反発する 刑事ニック/チンピラ佐藤 ⇔ チームのルールの大事さを知る 松本警部補/菅井親分
”ブラック・レイン”というタイトルは、広島の「黒い雨」のことを指す言葉ですが、本編のタイトルとして使われた意味としては更に1つ先の概念を持たせていいます。この言葉は、日本の儒教的集団主義を背負った菅井親分が、アメリカの個人主義的思想が蔓延し、佐藤のようなチンピラばかりが増えてきたことを嘆く発言の中でのフレーズですが、正に、集団主義と個人主義の対比こそが、本作の見所です。
堅苦しいルールに縛られるのが嫌で、自由にバイクに乗り、(恐らく)余りの自由さに妻と離婚し、金の横領もし、日本国内に居るのにも関わらず勝手に警察の指示を無視して身勝手な行動を続けるニックが、真面目で真摯な松本警部補とのコミュニケーションを通じて、一歩大人になる物語です。
一方、チンピラである佐藤は、一瞬 親分達のルールに従うかに見せかけ指をつめますが、それを見て心を許した菅井を裏切って斬りつけてしまいます。彼は成長をすることができずに、良きチームとなった、ニックと松本のコンビに補導されるのです。
個人主義への批判というよりも集団主義の持つ真の意味と友情の美しさがテーマとして記憶に残る作品です。
< 最も象徴的なシーンとしてのうどん >
本作で最も印象深いシーンは、築地市場の夜明け前に、うどんを食べるニックと松本のシーンでしょう。
松本は、米国からニックの横領疑惑がかかっていることを知ってしまい、その信実を確かめようとします。
(*この時の高倉健の表情変化が実に細かいのも見所です)
チャーリーという相棒を失い(それもチャーリーが日本のルールを無視して独自な捜査活動に連れ回したことによって)感傷的になったニックは、同じく監督義務を敢えて怠って自由にさせてしまったことを悔やむ松本への理解から、横領したことを認めます。
その時に、チャーリーはそれを知っていたのか?という松本の問いは、極めて深い一撃をニックに与えたことでしょう。
正直に告白するニックに松本は追い打ちを掛けるように、窃盗はニックだけでなくチャーリーの名誉もそして(”貴方を信じていいた私”である)松本自身をも傷つけるものだと猛省を静かに促すのです。
純粋でお坊ちゃんで、ニックを完全な白だと思って慕っていたチャーリー
酔いながら共通の歌で盛り上がり親睦を深めたチャーリーと松本の一幕
アジトの現場からドル札をこっそり盗んだことに静かに怒っていた松本との対立とその後の和解
等々、様々なシーンを思い出して泣けるシーンです。
集団主義といっても、ただお堅いルールが無意味に存在しているのではなく、その奥に芯となる”正義の心”が通っているのです。
自分なりのやり方で成果も上がっているし、悪い奴らの金をちょっと横領した位で何が悪い?と思っていたニックが、本気で他人の考え方を理解した瞬間でしょう。
< 対立と和解の繰り返し 萌える 友情 >
一方の松本も作中心が揺れ動きます。これを想像しながら本作を追っていくと実に萌えます。
勝手に捜査車両に乗ってしまうニックとチャーリーを制止できず、彼のヤマだ、という気持ちも理解して連れて行ったら、
アジトでは金を盗む。大橋警視には叱責を受ける。
勿論、剣道のシーンでは見損なったと怒る。
しかし、それが偽札かどうかを確かめる為に先に行動した彼等なりのやり方だと知って一度は納得します。
その後チャーリーとは共通の歌や、ネクタイのプレゼントを通じて、異文化理解ということに1つ心を開きます
そして、チャーリーを失ったニックに、思わず「遺品を1つ渡す文化だ」と言って、銃を(実際には非合法ながら)独断で渡してしまう。
しかし、工場での闘いの後に、松本は警部補から降格・謹慎処分。ニックは本国へ送還となり、行き過ぎた自由を与えたことを後悔し、またもや身勝手に空港から抜け出したニックが訪問してきても「帰ってくれ」と静かに追い返すのです。
(*終始高倉健の静かに怒るシーンがいかにも嘗ての日本的で美しいです)
その後、何故棚田の決闘場を松本警部補が察知できたのか? その描写をバッサリカットし、
緊張感ある棚田のニックのピンチにこっそり登場する松本のシーンは、とても美しい登場のさせかたでした。
これは、それまでに何度も喧嘩と仲直りがあった故に納得感があるという、事前の準備があったからこそ跳躍できるものですし、逆に、ここで長々と心を帰る松本のシーンなどを入れると、一気に安物のドラマになってしまい、棚田のシーンの緊張感も台無しです。
この完成度の高さは唸るしかありませんでした。
< 丁寧な伏線 >
更に細かく良いポイントが随所にあり、拙い自分の語彙力では全てをまとめることができません。
しかしこの作品は、掘れば掘るほど完成度の高さが味わえることでしょう。
・冒頭のバイクレース バイクが得意なニックの描写 ⇔ 棚田のバイク逃走劇で 佐藤に追いつくニック
⇒更にこのシーンは単にニックの能力の事前説明のみならず、冒頭ではタダ金を巻き上げるだけだった乱暴なニックが、佐藤との闘いの最期では、地面に突き刺さる杭に佐藤を刺そうと思って思い留まる 正義漢に変わったことを、対比によって描くことができています。
・暴走族が寄ったニックとチャーリーを脅かすシーン ⇔ 佐藤とその古文がチャーリーを襲うシーン
⇒これがあることによって、チャーリーが不用意にバイクについていってしまうことが視聴者的にもおかしく映らない。
また、冒頭でニックのバイクを牛に見立てて闘牛士のポーズをとって遊ぶシーンがあるが、それをこの急襲シーンでも描くことによって、チャーリーが安易に巻き込まれてしまうキッカケが自然になっています。
・アジトを抜け出す際にバイクに乗って振り向く 佐藤 ⇔ チャーリーを襲う時にバイクから振り向く 佐藤
⇒アジトでの不気味な佐藤の表情がサスペンス要素を加えています。ニック・チャーリー・松本が、逃走犯を追いかけているように見えて、視聴者には、それが最初から佐藤の手のひらに乗ってしまっているだけなのが伝わるシーンです。
また、ニックと佐藤の個人的な闘い、という側面の描写は、ニューヨークのお店での佐藤の視線、飛行機での佐藤の視線、など随所で松田優作による演技で描写されています。その個人的な闘いという軸があることによって、菅井親分との緩やかなニックの共闘関係の大義が成立する他、正義漢である松本がニックに理解を示すポイントとなっていることも大きなポイントです。
・アジトに残ったドル札を盗むニック ⇔ 菅井と佐藤の闘いから偽札の原版を盗む ニック
⇒シャツの下に原版を入れてプレゼントとして返すシーンは、最期の締めとして実に美しいシーンでした。 またお前が盗ったんじゃないよな?という松本の猜疑心を綺麗に裏切り、盗んだのは確かだけど、今度はちゃんと返したよ、あんたの手柄にしなよ!という贈り物でもあります。
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役者も良い。映像も良い。そしてハリウッド映画なのに主人公も成長する物語。80年代末の日本が外からどう見えていたのかも堪能できる。
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迫力ある映像が満載。音を消して観るとよりわかるかもしれません。スローモーションで空中を飛ぶシーンや車に光が当たって一気に新品のように輝く瞬間などがとても美しい。