TVCMは誰のものか?-映画の著作権について-
かねてから業界慣習上グレーだと思っていたことの中に、
TVCMの著作権については、制作会社・広告会社・広告主の3社で協議しよう! という慣習(92年合意については、こちら)がありました。
著作権法上の「映画の著作権」は、劇場用映画を想定して作られているものであるため、同法の規定をコマーシャルフィルムに適応して良いのかどうかすら、よくわからないから、取り敢えず関係各社で都度、協議しよう、という棚上げ論的な考え方です。
実務上は、これで支障は出ないのですが、映画やTV番組を作っている人からすると、何ともいい加減にしろだな、と思われることでしょう。
ところが、最近になって、ほぼほぼ決着がつきそうな判決が出ていたことを知りましたので、紹介しておきます。
平成24(ネ)10008
先ず始めにいくつか補足をしておきます。
■用語「プリント」について■
TVCMは、HDCAMやD2と呼ばれる磁気テープに記録させて放送局に納品します。
従って、放送した放送局分の本数分だけ磁気テープに録画しなければなりません。
因みに、中身を間違えて放送しないように、1つのテープに1つの内容しか録画してはいけません。
発売前と発売後の2パターンがあれば、2倍の本数が必要です。
1本1本テープにコピーを録画していく作業のことを「プリント」と呼んでいます。
コマーシャルフィルムが著作物だとすると、オンエア用にプリントをする行為は、複製権の行使と言えます。
■映画の著作権について■
イラストや小説の著作権が個人のクリエイターに帰属するのと異なり、映画の著作権については、特別な規定があります。
判例本文中に
”同法29条1項は,映画の著作物に関しては,映画製作者が自己のリ
スクの下に多大の製作費を投資する例が多いこと,多数の著作者全てに著作権行使
を認めると,映画の著作物の円滑な利用が妨げられることなどの点を考慮して,立
法されたもの”
とある通り、映画は、制作費を負担した所が著作権を保有します。
(*因みに、単純に現場で作る作業と異なって、費用を負担して創作に関わる行為を慣習上「製作」と呼びます。)
そもそも著作権法(特に大陸法的な)の考え方は、
いずれは、公共の財産にするけれども、クリエイターに一定期間、独占的に権利を渡して作品で儲けてもらわないことには、意欲が削がれて新しい作品が生まれてこないでしょう?
という所から来ているので、
次の映像作品を作って貰うには、ちゃんと制作費を回収して儲けてもらわないことには、始まらない、と考えると、この映画の著作権に関する規定は、納得が行くものかと思います。
■判例の概要■
読み難いと思いますが、簡単に要約すると
コマーシャルフィルムを作ったある制作会社が、プリント作業だけ別の制作会社に発注されたことを不当だと提訴しました。
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- 原告側の主張の意訳--
映画の著作権の規定は、興行映画を想定した規定なので、コマーシャルフィルムの場合は例外で、メインのクリエイターである監督に著作権は帰属するし、今回は監督から著作権譲渡を暗黙の了解で得た制作会社が著作権を持っている。プリント作業=複製権の行使は、制作会社の権利。
実は制作費として最初に貰った金額も十分な金額ではなくて、プリント作業の利益で補填している慣習があるから、制作会社が制作費リスクを負担しているのだ。
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- 判決の一部引用と意訳--
製作者たる広告主は,原告及び被告アドックに対し,約3000万円の制作費を支払っているのみならず,別途多額の出演料等も支払っていること,同広告映像により,期待した広告効果を得られるか否かについてのリスクは,専ら,製作者たる広告主において負担しており,製作者たる広告主において,著作物の円滑な利用を確保する必要性は高いと考えられること等を総合考慮する
つまり、
十分な制作費を広告主が負担しているし、映像制作にかかった費用以外に、タレントの契約料だって負担してる。
加えて、コマーシャルフィルムの制作費自体が、宣伝する商品の事業リスクの一部なんだから、製作にかかるリスクの殆ど全てを広告主が負担している。
映画の著作権の規定を適用しても問題ないし、そう考えた場合、コマーシャルフィルムの製作者は広告主である。
プリント費の発注の慣習も厳密には存在したとは言えないが、そもそも制作会社に著作権があるわけではない。
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という内容です。
元々は、
プリント作業の発注位はうちの権利でしょ?それを想定して安い制作費で受けてたんだから困りますよ
という話だったのだとは思うのですが、
いつの間にか、話は、コマーシャルフィルムの映画の著作権の帰属に広がり、
結果的に、コマーシャルフィルムの著作権の帰属は広告主、ということに判例上はなりました。
プリント費を見越した制作費の支払いについては、下請法の範疇なので、知財高裁の案件だったのかどうかさえ、個人的には、微妙なのですが、それはさて置き、
1点追加で補足します。
■TVCMは、放映してこその価値■
放送局には、音楽著作の著作隣接権が発生するケースがありますが、
TVCMにも似たような要素があります。
広告媒体の枠を買って世の中に周知したからこそ、認知があり、創作物として世の中に認められた、と考えると
(例えば、「あたり前田のクラッカー」が1回しかオンエアされてなければ、ここまでメジャーではなかったでしょう)
媒体費も、当該コマーシャルフィルムの制作費リスクに含まれるべきなんじゃないかなーと思います。
今回の判決はそこまで言及していませんが。
◆劇場映画の宣伝費◆
因みに、劇場映画の宣伝費・プリント費(通称、P&A)は、製作委員会の出資項目には入りませんが、製作委員会の収支のトップオフ項目として優先的に回収されていく慣習があります。
(以前の製作委員会方式に関連する記事はこちら)
これは、そうしないと配給会社の負担が大きくて、潰れてしまうから、という側面もありますし、
やはり宣伝費が興行的成功には不可欠な要素として業界慣習上考えられているという側面もあると思います。