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コモディティ化する”マーケティング”と、コピーライター平賀源内

最近「Webマーケティング」「SNSマーケティング」といった「○○マーケター」と名乗る方をよく見ます。実際に仕事上でも「マーケティングの話をします~」という前置きもよく聞くようになりました。

一方で、日々の仕事の中で「マーケティング(狭義)」の限界も感じます。

マーケティングフレームワークについて

マーケティングフレームワークはすっかり一般化した

  • PEST分析
  • 3C分析
  • SWOT分析
  • 商品ライフサイクル
  • ライフタイムバリュー

etc...

といった用語を日常的に使う人が、SNS上でもリアルな取引先でも増えた印象があります。「外資コンサルタントが教える~」といった類の本が数多く出版され誰もが一度は読んだことがあるのでしょう。

フレームワークの限界

広告代理店の本業は、媒体枠の調達であり広告表現制作です。マーケティング戦略部分は通常、広告主側にいるマーケターがオリエンテーションとしてまとめます。しかし、往々にして”代理店さんの自由な発想を妨げたくない”という理由で、マーケティング戦略部分も白紙の状態でオリエンテーションとなるケースも多々あります。そういうときは、広告代理店側でもマーケティング戦略をまとめることがあります。1

その日々の中で感じるのが、マーケティングフレームワークモデルは恣意的である ということです。

SWOT分析の「強み」に何を入れるか・入れないか、資料作成者の意のままです。

「シェアが伸びていない」という事象を 「伸び代がある機会である」と捉えるか 「競合が伸びてきた驚異である」と捉えるか、 資料のストーリーの持って行き方次第です

フレームワークを埋めるだけなら特に知識は要らない

更に「フレームワーク」の危険なところは、特に勉強していない素人でも書き方を知っていれば書けてしまうということです。

調査分析の支援業務なら

といった能力や経験が必要なので、今日明日、本を読んで先輩のカバン持ちをしていた人が実行できることではありません。

一方で、SWOT分析マスを埋めることであれば、広告主にヒアリングしてオープンデータを漁れば、それっぽく埋めることはできます。

必要なのは解決策を作る力

コピーライター平賀源内

嘘か本当かわかりませんが、「土用の丑の日」に、元気が出るからうなぎを食べろ、という風習を作ったのは、平賀源内だと言われています。

結果、うなぎが絶滅危惧種になるなど消費が歪になってしまったことは失敗と言わざるを得ませんが、今までうなぎを食べる習慣がなかった人を振り返らせたという意味では、素晴らしい仕事だと言えるでしょう。

これがコピーライターの仕事の一つです

フレームワークで「土用の丑の日」は出てこない

誰もが注目していなかったうなぎについて、江戸時代の人が、SWOTでも3CでもPESTでも良いですが、何かフレームワークモデルで分析したところで、注目されていない興味を持ってくれる人はいないという月並みな結論が出てくるだけだったのではないでしょうか?

  • うなぎを食べると元気が出るってことにしちゃえ
  • 食べるきっかけに特別な日にしちゃえ

という結論が自動的に出てくるとは」思えません。

  • 夏バテに注目してから夏バテで苦労している人がこんなに居ます!ここにマーケットがあります!
  • うなぎは夏バテに効くエビデンスあります!

といったことを後から裏付けることはできますが、その逆はできません

人の価値観を変えることはできているか?

今まで振り向いてくれなかった人を振り向かせることが売れるようにする仕組みでは重要です。そしてその解決策は一つではありません。

例えば、iPhoneはボタンを無くしたから売れたのでしょうか?そんな端末は以前にもありました。「ボタンが邪魔だと思う人が一定数居る」までは調査データのとりまとめで思いついたとしても、実際に買わせるにはスワイプする行為が何かカッコ良かったとかアップルコンピューターはデザイナーなどイケてる人が支持してるといった憧れも必要だったはずです。2

プロダクトが解決することもあれば、キャッチコピーが解決することもあれば、デザインが解決することもあれば、社長のカリスマ性が解決することもあります。

しかし、フレームワークの整理からはいずれの解決策も登場しません。フレームワークは解決策を思いついた後の説得方法だという順番を間違えてはいけないでしょう。

コンサルタントとアドバイザーは異なる

実行力のあるコンサルタント

所謂戦略系コンサルティングファームの人は経営層と対面していますので、執行役員以下と相対する広告代理店では余り現場でお目にかかることがありません。

一方で、「~コンサル」といった個別の事業の専門家の方とはご一緒することがあります。総じて言えるのはコンサルタントは実行しているということです。

  • ヒアリングが必要ならフットワーク軽く聞きに行く
  • 事業計画のシミュレーションを作る
  • クライアントの縦割り組織を渡り歩いて根回しする
  • 足りないパートナーが居たら見つけてきてアサインする

といった解決策を策定することにコミットしていて、マーケティングフレームワークによる説明などは使っていない申し訳程度に入っているだけです

「年商○億」の人は、コンサルタントですか?アドバイザーですか?

  • 自分はもう充分稼いだんで支援する側に回ります!
  • ~コンサルするんで有料セミナーやりまーす!

知見の共有やTipsの共有はセミナーでも勉強会でも積極的な人が共有してくれますし、支援会社の人が業務として本を出したりWhitePaperにしてリード獲得しています。

フレームワークに限界があるように、残念ながらマーケティングにおける解決策のフェーズは再現性がないことが殆どです。踊らされないで実施経験を積むしか今のところ手段はないのでは?と思います。

「狭義のマーケティング」(=マーケティングフレームワーク)はかなりコモディティ化してしまいましたが、発言者が本当にコンサルタントなのか?ただの安全な立場から語るだけのアドバイザーなのか?見極めが必要でしょう。


フレームワークは戦略コンサルティングファームが作った説得手法に過ぎません。一方で、広告代理店のクリエイターも、プロモーションの一部しか担当していないのにすべて自分が解決したかのように本を書きます。

マーケティング業務について知るには、広告主側の本を読んだ方が良いでしょう。

→ 「確率思考の戦略論」の方が面白いのですが(ディリクレ分布やポワソン分布が出てきます)、組織改革しないと進まないものは進まないという現実は常に意識した方が良いでしょう。

→ 有名な広告制作会社に居たこともある人で今は広告主側にいる人、「宣伝費は自分のお金がだと思え」という例えはよく使わせて頂いています。

→ 森岡さんの別の本でも書いてありますがマーケターは「コスト」や「キャッシュフロー」「生産体制」も意識しなければ務まりません。好きなアドバイスをして終わりではなく、それが量産できるか?納期はいつか?そんなことも必要な視点です。


  1. 広告代理店の場合は、組織改革・販売チャネル改革・ポートフォリオの変更・価格改定といったことまでは踏み込まず、特定のブランド(商材)のプロモーション戦略策定が中心です。たまに商品開発としてネーミング・パッケージ・フレーバー開発”協力”があります。

  2. 誰もちゃんとなんでiPhoneを買ったのか?最初に買った人や、後追いで買った人を調査してませんね。そういば。