「デジタルマーケティング」について説明して欲しい”という依頼が増えました。
- 「デジタルマーケティング」に取り組め!という号令は出ているものの、そもそもデジタルマーケティングで何ができるのかわからない。
- 色々な外部に聞いてもそれぞれ言うことが違って結局何から取り組めばいいかわからない。
恐らくそういう悩みを抱えている人が多いと思います。
「デジタルマーケティング」とは便利な言葉で、あらゆる業界の人が”我々の分野こそがデジタルマーケティングだ!”と言っているのが実態です。 ただの機械学習ブームを「AI(人工知能)」と言っている人たちと同じ状態です。
逆に言うと、明確なデジタルマーケティングの定義などというものは存在しないので、「デジタルマーケティングとは何か?」という問こそが不適切です。
存在しない答えは無理に追うことはせず、実際に起きている幾つかの変化について俯瞰し、何が自分たちにとって必要なのか?を見極めるしかないと思います。
デジタルマーケティングにおけるプレイヤー
「デジタルマーケティング」を説く業種は複数あります。これまでマーケティングと言えば主にコンサルティング会社が言うことでしたが、様々な企業が生き残りをかけて、自分たちこそがマーケティングのキープレイヤーだと主張しているわけです
Web広告屋
Web専業の広告代理店、総合広告代理店のWebメディアセクションの人たちです。 そもそもWeb広告を「デジタル広告」とよびますが、これが誤解のもとかもしれません。
Web広告は進化し細かくターゲティングできるようになりましたが、Web広告そのものの購買に対する影響度は上がっているのか?というと、せいぜいYoutubeくらいのもので他は対して変わっていません。
- テレビを見る時間が減った若者にリーチする為に補完としてWeb広告が必要
- 需要が既に何らかの別の要因で顕在化した人を後押しする刈取り型広告で効果がある
大きくわけるとこの2つの機能であることから変わっていません。デジタルマーケティングと読んで売り込んでいるのはこのうち2つめの刈取り型のターゲティングの種類が増えました!というだけで、これまでのマス広告やPRが必要であることは変わらないのです。
またターゲティングが細かくできたからと言ってそのターゲット全員にリーチするわけではなく、全国規模である程度の消費者が居るのであればTVが一番安いですし、その費用がないと言っても、既存のGoogle AdWordsによる広告のターゲティングで充分というケースは多いと思われます。ターゲティングに使うデータの使用料分の効率化ができない、ということもありえます。
PR屋
ソーシャルメディアマーケターといった類の人たちです。一方的な情報では伝わらないのでソーシャルでバズらせましょう!というものから、Webサイトにユーザーが求める社会的関心事のコンテンツを置いてプロモーションするコンテンツマーケティングなども推薦してくることがあるでしょうし、インフルエンサーマーケティングを推薦してくることもあるでしょう。アンバサダーマーケティングなどファンをコアにしましょう、というのもこの軸です。
Web広告がターゲティングをドンドン細かくしていきその効率を売りにしているのとは真逆にPRはターゲティングができません。
また、インフルエンサーやファン・アンバサダーを使ったプロモーションもSNSを使うことがあるというだけで,実際には昔からある掲示板的なコミュニティ機能であったり、リアルな体験会だったり、技術的には新しくはありません。
ITベンダー系
データを収集し最適な顧客体験をデータ・ドリブンで行いましょうと言う人たちです。マーケティングオートメーションやWeb接客ツールやコールセンターやらどちらかと言うと情報システム部門に営業をかけていた人たちが、マーケティング部門や宣伝部の予算を取ろうとしています。
BtoBやECにおいては便利なものもありますが、それ以外ではまだ実用段階ではなく、過剰にアピールされている印象があります。
多くのツールがタグを設置できるWebサイトを工程上踏ませてCookieシンクやログインなどで顧客一人一人を名寄せしていく、という前提ですが、そもそも全ての購買行動がWebを通るわけでもなく、システム導入の費用の割に得るものが少ないということも多いと思われます。
システムと連携できる施策しかできないので、顧客の状態をいくらデジタルで細かく把握したところで、実行できる手段が「メールマガジン」「サイト訪問時の表示内容の出し分け」「後追いのバナー広告」「お問合わせ内容への返答の出し分け」くらいなものです。BtoBならまだしも、メールマガジンなどそもそも殆どがゴミ箱行きでしょう。
デジタルマーケティングの背景で起きていること
いずれのプレイヤーも一長一短のものを我こそは!と売りこんでいて費用対効果は冷静に判断しなければなりませんが、一方でこれらの背景で起きている社会の変化については把握しておかなければなりません。今はすぐ必要ではないにせよ、中長期的には必要なこともあると思いますし、業界や企業規模によっては今すぐ導入しても良いケースもあるでしょう。
行動データの蓄積
ビッグデータブームから続く流れです。
- 位置情報
- 購買履歴
- アンケートデータ
- 自社商品の取引状況
などのデータを広告配信に使うことができるようになりました。所謂、DMPと呼ばれるものです。
まだまだ配信する量が少ない、などの課題はありますが、今後も新しいデータの取り方は増えてくるでしょう。日進月歩ですのでここには記載できませんが、各広告代理店に問い合わせれば様々な情報と連携できることがわかるでしょう。
yahoojp-marketing.tumblr.com生活者の判断材料の増加
テレビ広告が効かなくなってきた、とは10年前から言われていることですがこの傾向は続いています。
- ライブコマースでプチ有名人の推奨するものを買う(雑誌で言う読者モデルの薦めるものを買う行為)
- 広告は良いことしか言わないけれどレビューサイトや比較サイトに行けば実態がわかる
- 自分のタイムラインに上がっくる情報が情報源の人(インスタグラムで近くの店舗の情報を知る、など)
大昔はテレビ・新聞・雑誌そして広告、それだけしか情報源がなく、広告で購買行動が激しく動かされていた時代がありましたが、今は相対的に価値が下がっています。
例えば、大量ご発注してしまった小売店舗がSNSで悲鳴を上げたら周囲の人が買ってくれた、或いは、TVCMでは問題なかった表現がSNSでは炎上した、など、商品がどのようなストーリーで受け入れられるか?という設計が重要になってきました。浅はかなアイデアは通用しないということです。
自動化
Amazonのレコメンデーションエンジンが凄い、というのも7-8年位前から言われていることでしょうか?
小売店舗の店主が一人一人の客の顔を覚えて推薦する商品を決める、という作業は大規模になると追いつきませんが、統計処理であればそれが可能になります。
マーケティングオートメーションはまだまだ実態として人間がシナリオ設計をしていることもありますが、データベース上で明確なゴールを決められる場合には、途中のスコアリングを回帰分析なりディープラーニングなり色々な手法で自動化することもできるでしょう。
チャットボットの事例としては、ヤマト運輸の配送問い合わせが有名ですが、ある程度定型的な問い合わせをチャットボットで済ますことで、コールセンターでの初歩的な質問を削減する、というのは必要な企業にとっては導入した方が良いものだと思われます。
今までできなかったOne to Oneマーケティングがテクノロジーでできるようになる、というのはとても良いことだと思います。「デジタルで顧客体験を向上する」という思想はこの先も進化しサービスが増えていくでしょう。広い意味では電子決済もテクノロジーによる顧客対応の向上です。
まとめ
幾つかの方向性の異なる技術の進化が「デジタルマーケティング」と総称されています。どれも重要な変化ですが、ものによっては導入にコストがかかりますので、先ずは解決したい経営課題が何なのか?からの逆算と、夫々の技術で何がメリットになるのか’?を常にアンテナをはっておくことが重要でしょう。
特に、広告代理店界隈の人は「マーケティング」という言葉を「宣伝・プロモーション」とほぼ同義で使うケースがあるので注意が必要です。例えば、楽天ポイントの経済圏に入って顧客を増やす、という施策もマーケティングです。売れる仕組みを作ることがマーケティングですから、施策は限定されていないのです。
デジタルマーケティングに関する参考書
DMPについて
アドテクノロジーの教科書 デジタルマーケティング実践指南 [ 広瀬信輔 ]
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マーケティングオートメーションなどがBtoBマーケティングについて
BtoBのためのマーケティングオートメーション正しい選び方・使い方 日本企業のマーケティングと営業を考える (MarkeZine BOOKS) [ 庭山一郎 ]
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コミュニティやコンテンツマーケティング系
挑戦者たちに学ぶデジタルマーケティング ブランディング・地域活性から新市場開拓まで「洞察と [ 廣部嘉祥 ]
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ECについて。ややデジタルマーケティングからは外れるが活用するためには前提として必要
デジタルマーケティングで売上の壁を超える方法(MarkeZine BOOKS) [ 西井 敏恭 ]
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カスタマーエクスペリエンス系。調査手法よりの話が多いが顧客体験価値向上を意識しておかないとデジタルマーケティングで何を実現すべきか?の視野が狭くなる。
売上につながる「顧客ロイヤルティ戦略」入門 [ 遠藤直紀 ]
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デジタルマーケティングにおける組織の意思決定 。結局スーパーマンはいないので本書の指摘するようなチームワークが重要になってくる。