オンタイムで詳細を把握していなかった東芝の不正会計について、改めて本を読んでさらってみた。
読んだ本
『東芝事件総決算 会計と監査から解明する不正の実相』
監査の専門家が公開資料だけで解説したもの。不適切会計については、この本が一番フラットな説明。
『東芝の悲劇 』
歴代社長の人柄中心にノンフィクションライターがストーリーに仕立てたもの。どこまで信じて良いか不明なところもあるが、どうして不適切会計に走ってしまうのかのリアリティに共感できる。
『粉飾決算vs会計基準』
粉飾決算の裁判で負けて会計士の仕事を失い、粉飾決算研究家に転身した人が、長銀・オリンパス・ライブドア・東芝の不適切会計を紹介。東芝部分については第三者委員会で調査対象にならなかったものにも疑問を呈している。
東芝の不適切会計は、”よくあるレベル”でしかなかった
東芝の不適切会計は、PCのバイセル取引の不自然さと、原発の工事進行基準と減損の話とに絞られる。(※細野氏は退職給付債務の割引率も問題提起しているが、その点は問題とされておらず他の書籍でも取り上げられていない)
材料を社外に売って、完成品を買い取って、単価を知られたくないので実態と異なる価格で売り買いするバイセル取引については、不適切会計と指摘するのは確かに難しいと思った。決算期末に不自然に計上されるのは怪しいのだが、全く根拠のないものでもない。
原発の減損については、東日本大震災をピュアに眺めている東京民からすれば「もっと早く減損できた」と思う気持ちはわからないでもない。しかし、自然エネルギーの供給不安定さや化石燃料の枯渇を踏まえると小型原発などは再注目されるだろうし、将来性はあったと思うし、この事業を信じていた東芝が減損しないのは当たり前のようにも思える。
総じて、不適切会計については、メディアが騒ぎ立てる程の内容ではなかった、という印象だ。
何としても利益を計上したい経営陣の「プレッシャー」
これにいては細野氏のライブドア事件でも出てくるが、取締役は役員に、役員は中間管理職にプレッシャーをかけるものだ。プレッシャーをかけないと現場は成長させられないことは、民間企業社員だと当たり前に感じる。これはライターや記者と読者との間で感覚は違うだろうなと思う。市場と約束した利益・計画が必達できないのは裏切りなのだから、理屈や未来の計画を夢のように描くのは致し方ない
東芝の悲劇は寧ろM&A
『東芝の悲劇 』に詳しかったのだが、東芝グループが解体したのは不適切会計のせいというよりも、WHを三菱と入札合戦して高値掴みしてしまったことやその後の半導体の売却に経済産業省が横やりを入れたことなど、M&A回りの失敗が改修できなかったことの方が大きいと感じた。
勿論、WHがコンソーシアムを組んだ相手が赤字体質すぎたこと、タイミング悪く東日本大震災で原発への期待が一時的に下がってしまったこと、など運が悪かったというのも大きい。
不適切会計の遠因は銀行行政の限界
『粉飾決算vs会計基準』に詳しいが、バイセル取引以外にも、夢のように描いた計画で「のれん」を高く計上するテクニックなど、理屈をつけて売上を良く見せる方法は幾らでもある。それらが極端に悪用されるのは、資本欠損となると銀行が貸付金の返済を迫り、業績悪化している企業はあっという間に資金繰りが悪化して倒産してしまうからである。
困っている企業に追い打ちをかけるように返済を急ぐ銀行が悪の本体かというと、銀行は恐らく金融行政の指導でそうしていると思われる。我々はバブル崩壊の時代の反省で銀行が潰れにくいようにした結果、民間企業の積極的な成長を阻害し続けて来たのかもしれない。
東芝の事件からは、そのような感想を受けたが、実際のところどうなのだろうか?








