広告/統計/アニメ/映画 等に関するブログ

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自分の嫉妬心と向かい合う

最近読んだ本に、好きなことが見つからない人は自分が嫉妬するものにヒントがあるかもしれない、という指摘があった。

今読み始めている本にも同様の記載があり、醜いネガティブな欲望であっても回り回ってポジティブなことに還元されうるのだから先ずは自分の欲望と向かい合え、というアドバイスがある。

自分自身の嫉妬事例など人に公開するものでもないものだが、オープンに書き出すことで棚卸しをしてみたい。

諦めたことはしこりになる

アニメプロデューサーだった時代(嫉妬の出発点)

社会人になって数年間、アニメ番組のプロデューサーを補佐していたことがある。(実務はやるがジャッジは上に仰ぐという立場だ。)

そのとき関わった作品はどれも素晴らしい出来で、今も好きだ。サンプルが会社に届くのに、自分でビデオグラムのBOXを買ったりサウンドトラックのCDを買ったりしている。しかし、自分の会社にとってはいずれも赤字だった。

  • 「こんなに良いものを作っているのに何故、ヒットしないのか?」
  • 「広告代理店に居るのにヒットのさせかた、宣伝の仕方のノウハウが自分にはない。そのせいに違いない。」

ということで、定期ローテーションのタイミングに併せて、勉強のつもりで営業に異動した。

意外かもしれないが広告代理店の中で一番宣伝に詳しくなるのは営業だ。商品のプロモーションの司令塔は、広告主のプロモーション担当や開発担当だが、広告代理店の中でそこに一番近くで補佐するのは営業で、クリエイターやプランナーはどちらかというと各専門分野(映像やグラフィックを作る、セールスプロモーションの会社をコントロールする、媒体社とのリレーションを維持するetc...)の知識と人脈に特化していく。1

因みに、暫くするとマーケティング分野が興味深く、番組プロデュース業専業に戻る気持ちは薄れてしまった上に、当時居た部署は赤字がたたって早々に縮小・再生産となり役割も変わってしまった。

コンテンツビジネスでヒットを続ける会社への嫉妬

暫く金融・物流といった堅い企業の担当を挟みながら、いつの間にかエンターテインメント系企業の担当営業に偶然にもなってしまった。そしてその頃、一番嫉妬していたのが、「ANIPLEX」という会社だ。いや、今でも嫉妬する。

エンタメ作品のプロモーションを手伝う中、コンテンツビジネスでヒットするしないは運の要素が大きいと自分の中で結論づけていたのだが、そのような中、ANIPLEXという会社だけは何故かヒットを安定的に出せていたし、今もまだ出し続けているのだ。

なお、アニメ業界で儲け続けるには主に2つの方法がある。

  1. 良い土地(放送時間帯)を持っている。
    • 嘗て最もオーソドックスだったのはこの手法だ。プライムタイムより若干早いタイミングは子ども向けの番組なら世帯視聴率が取れるという時代があり、安定して子どもにコンテンツを刷り込むことができた。一等地にいつも自社宣伝枠があるような状態だ。一等地は利権でもあり、注意してみるといつも同じ製作会社であったり、同じスポンサーであったりした筈だ。少子化で夕方の世帯視聴率が取れなくなった今でも日曜日の朝の戦隊・ライダー・プリキュアの人気は絶大である。
      • 因みにアニメ業界で安定した会社が減っているのは夕方の土地の価値が下がったことも大きい。キングレコードバンダイビジュアル角川書店が幾つかの制作会社と緩やかにタッグを組みながら安定して儲けていたわけだが、今はその効果はなく、土地を持っていることよりも作品を話題化するテクニックの方がより重要になり、浮き沈みが激しい。
  2. 過去の人気作の著作権を持っている。
    • ガンダムを毎年何らかの形で収益化している総通・サンライズと、マクロスを数年に一回作り直しているビッグウエストがこのパターンだ。逆にタツノコプロダクションは作り直しのタイミングが遅かったり、作り直した作品がいまいちヒットしなかったし、何より前述の3社ほどに商売が上手くない。また、このパターンはそこそこリスクや投資もしないといけないので、そのコンテンツなら高い権利料でも自社で商品化して商売したい!というパトロンが見つかっているかどうか?も重要だ
    • アンパンマンドラえもんも過去の人気作に頼っているパターンだが現役で毎年ファンが増えているので(1)とのハイブリッドだ。テレビ放送では儲かっていないかもしれないが、子ども向けアンパンマングッズ市場は安定しているし、ドラえもんの映画は毎年ヒットする。名探偵コナンもそろそろこの仲間入りだろうし、ポケットモンスターは元はゲームだが方式は似ている。逆にこのポジションになれそうでなれなかったのは、イナズマイレブンや妖怪ウオッチだ。人気作になるまでの辛抱が重要だ。

そして、このどちらの王道パターン(或いは既得権益)に属さずにヒット作を出し続け始めたのが「ANIPLEX」だ。「シティーハンター」や「るろうに剣心」の頃から違う社名で存在はしていたが、「おおきく振りかぶって」「黒執事」といった作品を早々に目をつけて番組化したり、特に舌を巻いたのは「夏目友人帳」で、自分が漫画を読んだとき”映像化には向いてない”と思ったのにアニメ化された作品の出来上がりが感動するほど素晴らしかった。

  • たまたま目利きが居るだけだ
  • 売れなかったオリジナル作品も多い
  • 運良く腐女子ブームの乗っかれただけでしょう?

という邪悪な嫉妬心を持っていたものだが、2019年度もFGOが大ヒットしていて遂にSONYの決算に貢献するまでになっている。

かつて自分は「コンテンツビジネスは博打すぎる」と見限った筈なのに、今でも自分にはできなかったことをこの人たちはできているという事実に嫉妬する気持ちは強い。

なお、ヒットには運が大きいという説はエンタメ業界に限らず真実だと思っている。勿論ベースの品質の良さは大切なのだが、運良くジャスティン・ビーバーにイイネ!と言ってもらえるかどうかでメジャーになるかどうかが決まる。一番わかり易い本はこれだろう。

エンターテインメント業界の周辺で儲ける人への嫉妬

ANIPLEXの次に嫉妬するようになったのは、エンターテインメント業界の周辺で儲ける人が増えたことへの嫉妬だ。

その前に少しだけ背景を遡る。

音楽リズムゲームのプロモーションを担当していた頃に如実に変化を感じたことの一つが「初音ミクの子どもへの浸透」だった。アニメコンテンツはまだまだ一部の気持ち悪いオタクが楽しむものだというイメージは強かったものの、ニコニコ動画でアップされた初音ミクYoutubeに転載されることが増えてくると、子どもはYoutubeには接触していて、初音ミクは一般的なキャラクターとしてオタクでもオタクでない人にも受け入れられていることがわかった。(雑誌のタイアップで子どものモデルにヒアリングした。)

その世代辺りからは必ずしもオタクでない人もテレビアニメを見ることにさほど抵抗がない人の割合が多い。オタクでないというのはどういう意味かというと、本編以外のアンソロジーの物語を渇望する、創作する、こんなエピソードがあったら良いなとか勝手に拡大解釈を増やしていく、世界観を消費する、Ver違いの差異にこだわって収集する、元ネタを探し始める、あるシーンを作った作り手やキャラクター設計をした人の別の作品に手を伸ばし始める等々、やたらと深ぼっていくタイプではない人ということだ。

アニメが好きな人が増えたことによって、徐々に周辺のビジネスが儲かるようになってきた。

  • 今ヒットしている作品が何か?をSNSの盛り上がり等をウォッチし企業にレポーティングしてタイアップやキャラクター使用を検討する企業からお金を貰う
  • ユーザー心理をアドバイスしてタイアップのコーディネートのサポートをして企業からお金を貰う
  • アニメソング中心のクラブイベントで儲ける
  • オタクと関係ない商品プロモーションに声優の声を使って再生回数を伸ばすプランナーも好きじゃない

何故自分がそこに嫉妬心があるのかは自分でも謎だが、創作している人ではなく、「アドバイス」や「コーディネート」だけしている人が儲かっているという話を聞くと腹立たしい。

当初、それは自分の正義感からくる怒りではないか?と思っていたものの、自分の嫉妬心を深ぼると自分が儲けることを諦めた業界で素人ですら儲けられているということへの嫉妬なのだと思う。

嫉妬の本質な点を探る

このように振り返ると、エンターテインメント業界へのルサンチマンがあるように思うのだが、そのように単純に総括してしまうことへも違和感がある。

エンターテインメント業界の精神的な苦しさ

人は儲けなければならない。理想的な世界では、良いコンテンツが多くの人に観られて収益化することで、ディズニーの映画やハリウッド映画のパターンは美しい形だ。しかし現実には、良い作品を作れば儲かる筈だと信じると、サムライチャンプルーのようなストイックな作品ばかり作って倒産したマングローブのようなことになる。

安定した収益を狙うには、

  • まだ欲望のコントロールができない子どもの物欲を刺激し親の財布からお金を巻きあげる
  • 物欲の制限が外れたオタクに手を変え品を変え買わせる。(ソーシャルゲームの廃課金をイメージするとわかりやすい)

の2点のどちらかから逃れることはできない。

ディズニークラスのワールドワイドなヒット作にするには制作費もかかるし営業力も宣伝力も必要で、結局はどこかのタイミングでう2つのような心を鬼にして収益に拘る時期を経ないと始めることすらできない領域だ。2

恐らく儲けることに一切抵抗のない東京の私立大学出身の人には向いているビジネスだと思うが、反資本主義的な地方の国立大学を出た人間にとって、他人の欲望に漬け込んで消費させることには激しく抵抗がある。

リアルなイベントをやってみるとわかるが、

  • レアカードを求めてイベント会場でカードを広げている子どもの狂ったような目
  • アイドルと握手や撮影するイベントへ「先行予約に申込める権利(当たるわけではない)」だけがついたDVDを買わされて会場に来た人の目

に直面すると、こんな人達からお金を巻き上げて良いものだろうか?と苦しくなる。3

本当に嫉妬しているのは、業界に対してではなく、「できなかったことを実現している人」に対して

実はエンターテインメント業界担当営業を離れて急速にコンテンツ消費欲が減退してしまった。一時は、毎日テレビアニメ放映を見ていた筈の自分が、たまに一気観したり映画館で見る程度にまで減り、かなり一般人と同じ頻度にまで低下した。自分が好きだと思っていたものが言うほど好きでもなかった、と認識するのはアイデンティティの崩壊にも繋がる。

一方で、どの作品が今期ヒットするか?どの漫画がこの後ヒットするか?を考察しアンテナを貼らねばならない、というプレッシャーから開放されて純粋にユーザーとして楽しめるようにもなった。4

エンターテインメント業界・コンテンツビジネスで儲けている企業や人に嫉妬しているからといって、その業界で一旗揚げたいという強い野心も責任感もあるわけではなく、自分が無理だと諦めた分野で成功している人がいて悔しいとプライドが傷ついていると認識する方が正しい。自分の場合の野心は寧ろ、単に「成功者になりたい」というレベルの身も蓋もない欲求だ。

恐らく自分の場合は「何かの分野で自分の思う正統派の範囲で成功する」までは、ずっとこれらの嫉妬から逃れられないのだと思う。


  1. もしかすると広告業界以外の人にはクリエイティブディレクターが全て決めているように見えるかもしれないし、そう言い張る独立したクリエイターの書籍も多い。しかし残念ながら施策の予算配分や投下タイミングを決めているのはだいたい営業だ。広告業界に限らず、ソリューション型営業と呼ばれる職業の営業は大方、プロジェクトマネジメント業務とセールス活動とを並行してどちらもやる。

  2. 最近読んだDeNA南場さんの「不格好経営」でもあるときから収益に拘ることへ転換したということを仰られていた。

  3. 補足をしておくと全てのエンターテインメント製品がこのような手法に頼っているわけではない。儲かるタイトルの横でそこそこの儲けで生きているようなタイトルはもっと健全だし、例えばチーム制で戦うゲーム大会でも、お金を払ったもん勝ち、になると一気にユーザーは狂い始めるが、チームプレイが上手い人が勝ちのこれる、という健全な設計にすると急にユーザー層が健全になる。この手のエンターテインメント業界のプロモーションは圧倒的に楽しい。TVCMで消費財を刷り込むことよりも断然に楽しい。ただ、それでは圧倒的に儲けることが難しいので貪欲に儲ける別タイトルの恩恵にもあずからないといけない。

  4. 因みに自分は、「物語を広めることが好きだ」と自分で思い込んでいた時期もあった。小説でも映画でもラジオドラマでも、人を感動させる物語を提供してそれで儲けたい、と。その気持ちは今でも嘘ではないが、冷静に考えると殆どの人が他人の物事に感動して勇気を貰うものであり、スピーチでも自叙伝でも起こせることだ。自分固有の欲望というよりも衣食住に次いで誰もが持つ普通の欲求であり、”自分の好きなこと”にカテゴライズするものではない。「みんな美味しい食事は好きさ!」というレベルの自己分析だった。