最近立て続けに中国企業の成長を探る本を読み、モヤモヤとしていたことが瓦解しました。
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事例でわかる 新・小売革命 中国発ニューリテールとは? [ 劉潤 ]
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このエントリーにまとめたことは上、2つの本を読めば実質的に解決します
マーケティングという言葉の幻想について
最近「マーケティング」という言葉が反乱していて、色々な人がポジショントークをしているように感じます。もともと定義がしっかり決まっている職種でもないのと、日本の場合は「なんか凄そう」というイメージもついているせいか、言葉を拡大解釈して自分のセールスに使っている人も多い印象があります。
様々な立場にとっての「マーケティング」
私が関わって来た中で、マーケティングという言葉は大きく以下の3つの使われ方があるように思います
以降、簡潔に紹介しますが、少し横道なので以下3ブロックは読み飛ばしても問題ありません
戦略コンサルタントの使う「マーケティング」
マッキンゼーやボストンコンサルティングといった所謂戦略コンサルタントは、製品のラインナップを確認し、
- ライフサイクル上、衰退期に居る商品部門を縮小する
- カニバリゼーションを起こしている商品部門を解体する
- 販売チャンネルを見直し営業の人員配分を変える
- 競合優位性の薄いブランドの売却する
といった形で、大きな視点での改善を提案していきます。彼らはこのようなレベルで「マーケティング」という言葉を使います。よくみるSWOT分析や製品のライフサイクルなどは彼らの提唱によるものだったと記憶していますが、会社全体を視野に入れて事業部の力配分にメスを入れることを期待されています。
コンサルタントだけを生業にしてきた人は、分析力を買われているのだと思っている節があるようなのですが、傍目から見ていると分析力自体は普通で、そんなことよりも外部の人だからこそできる部門横断のヒアリングと取り潰しという内部でやると軋轢が生まれそうな組織と組織の壁を壊す精神的なストレス代行に高い報酬が支払われているように見えます。
BtoBソリューション提供企業が使う「マーケティング」
最近「マーケティング」という言葉を反乱させているのはこちらのタイプの方々のように思います。
顧客にセールスするのが営業、それをサポートするのがマーケティング
簡単に言うとそういう意図で使われているようです
- PRで自社製品が必要とされる社会的気運を高める
- ホワイトペーパーを作り展示会に出展しサイトやメルマガのコンテンツで見込み顧客のリストと優先順位をつけて営業に渡す
私は広告代理店の人間なので「それはプロモーションなのでは?」と思ってしまうのですが、この用法は間違っているわけではなく、伝統的な企業でも「~マーケティング」という子会社は、だいたい「販売用子会社」ということがあります。
最近はBtoBセールス分野のソリューション市場が活発なため、「SNSマーケティング」や「WEBマーケティング」といった形で、「マーケティング」という用語が氾濫しています
広告代理店が使う「マーケティング」
これも恐らく使い方としてあっているわけではないのですが、巷の書店に平積みされる広告代理店の人や出身者が書いた本にも「マーケティング」ということが乱立しています。
- プロモーションの戦略(とくにBtoC)
- ターゲットインサイトの調査と分析
- コミュニケーションの費用を投下すべき戦略ターゲットの選定
- 3C分析やPEST分析を踏まえた、世間の文脈へのブランドのポジションの再定義
という意味で使われていることが多いと思います。
戦略コンサルタント目線では「Price、Place、Product、Promotion」がマーケティングの4つのPであって「Promotion」に特化する場合は、マーケティングと呼ぶと誤解を招くと思いますが、一般の人にはもやはこっちの意味での「マーケティング」の方が馴染みがあるかもしれません。
「製品企画時点でターゲットは決まっているべき」なのですが、実態としては既存製品の延長で世に出ている商品も多く、「商品は何も変わらないのだけど見せ方や売り込む相手を変えてもう一度、売れる商品に返り咲きたい」というニーズは極めて多いです。果たして製品の見直しをせずにできる範囲は限られているのではないか?とも思いますが、他部門と軋轢を生むことなく既存プロセスの延長で拡販できるという精神的負担の少なさが、このニーズを生み出しているのでしょう。
より重要な視点は「売れる仕組み作り」
それぞれの立場から「マーケティングとは何か?」を哲学者のように議論し続けることも趣味としては良いのだと思いますが、より重要なことは、「どうやって売れる仕組み作りをするか?」ということだと思います。商品企画寄りであろうと販売促進寄りであろうとプロモーション寄りであろうと、最終的な目的地は、自社製品を都合よく市場で生き残れせることがゴールのはずです。
そしてそのレベルを目標にすると、どうしてもビジネスモデル自体を改善しないと到達しないことに気がついていくはずです。
企業の社会的存在意義とビジネスモデルの本質
ところで企業が社会に存在する意義は何でしょうか?最近読んだ本にわかりやすい説明がありましたが、
社会の効率をより良くする
という解釈がもっともしっくりくるのではないでしょうか?
一人一人が農作業から道具作りまで全て自給自足していると多忙で死んでしまいますが、より得意な人に集積し役割分担することで社会全体の効率が上がっていく、お互いの便益の提供の媒体として「費用」を払う。企業が高い報酬を得ることが許されるのは、足元を見て暴利を貪るからではなく、その費用を払ってでもやってもらった方がトータルでは安いからということでしょう。
徹底的に効率化をはかる中国企業
以下は、冒頭に挙げた2冊の本からの受け売りですが、
- Xiaomiは80%のユーザーの80%の満足を満たすことで安くて良いものを提供することに成功した
- Alibabaのリアル店舗は中間流通業者を極力排除し自分たちの強みを活かせる店舗で勝負をした
など、伸びている中国企業は徹底的にコストダウンと顧客サービス向上を両立させています。
- 日本の企業は、ユーザー満足度を上げるために不必要に製品価格を上げてしまう
- 米国のデータ活用企業はユーザーの購買履歴をサービス向上には使わずにメルマガやポップアップ広告に使う
といった残念な方向へ進んでいますが、生き残るのは中国企業のように効率化を如何に達成するか?に集中している企業でしょう。
安くて良いものは当然ながら口コミで広まっていきますので、プロモーションで不必要にイメージアップにコストをかける必要もありません。
技術的価値提供ができる投資家
余談として紹介しますが、Xiaomiは投資スタンスも独特です。「ただお金を出す」のではなく、「自社の技術やブランドが相手のメリットになるか?」で投資先を決めています。
- Xiaomiのブランドを冠するとローンチ時に売れやすくなる
- Xiaomiの要素技術を提供すると伸びる
などの視点があるため、ベンチャー企業側も、ただお金を出すだけで製品開発に協力してくれない投資家よりもメリットが多く、ただのベンチャーキャピタルよりもXiaomiと組むことを選ぶことがあるようです。
当たるか当たらないかわからないけれどリスクマネーを投じなければならない文系だけの投資会社には真似をすることは難しいと考えると、今後投資家という世界も変わってくるでしょう。
技術を理解した人だけが「売れる仕組み作り」に貢献できる
Xiaomiの例もさることながら、中国以外の企業でも、更には昔から「技術を理解した人が商品を売れるしょうにできる」という事象は同じようです
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という本では、「技術開発部門の人がリーダーとなって、ユーザー調査をし市場の課題を把握し、自分の知識の足りない要素技術も他部門や外部の人と折衝し、社内の意思決定者の説得をし、商品ローンチ後のサポートと改善まで把握して商品を世に送り出していくさま」が様々な事例とともに描かれています。
終わりに(自身の実感として)
広告代理店のセールパーソンとして関わる中でも実感をしていますが、ターゲットのインサイトを深堀りし、プロモーション上でこの人はコストをかけて対応すべきターゲットだ、この人は違う、といった判断をしているのは、意外にも製品企画の立場の人であったりします。本業は製品企画であり製品の開発・改善の方が業務量は多いのですが、意欲的にコミュニケーションの戦略にも関わってきます。とても大変だと思いますが、結局のところ製品の技術改善やプロセスの改善ができる人だけが「売れる仕組み作り」の全体を俯瞰することができるのでしょう。
「マーケティングとは何か?」の議論も大切ですが、このようなポジションの人が今後、企業の中心を担っていくのだと思います。