人間の心は社会的に決まるということについての読書案内
最近はグローバルで活躍しかつSNSで情報発信をしていただける方が増えました。その為、日本の常識は海外では非常識ですよ、と教えてくれる人も増えてきました。
一方で、「海外では」とひと括りに言っても、「自分の行った海外では」という話であって、民族によってかなりバラツキのある話で、アングロサクソン系なら全部一緒だろう?と考えるのもかなり的外れです。人の心は社会的に決まるもので、所属する集団の社会規範に大きく左右されるものです。
丁度最近読んだ本でとてもわかりやすい本がありました
読書案内
ビジネスパーソンの視点
異民族同士の混成チームのマネジメントをコンサルティングされる方が長年、ビジネスの組織で実体験してきた事例の総まとめのような本。
異文化理解力 相手と自分の真意がわかるビジネスパーソン必須の教養 [ エリン・メイヤー ]
- ジャンル: 本・雑誌・コミック > 人文・地歴・哲学・社会 > 心理学 > 心理学
- ショップ: 楽天ブックス
- 価格: 1,980円
特に企業内で上司と部下がどのようなコミュニケーションスタイルを望むか?という視点で情報を集めた本は少ないので重宝するかと思います。(私は生憎ドメスティックな会社に勤めていますので、ただの教養にしかなりませんが) 国別にどういうフィードバックを好むか?どういう時間意識を望むか?は千差万別で、聴衆が盛り上がっているのに公演時刻ピッタリに終えてしまうと「失礼だ」と捉える国の事例など、なかなか予め知っていないと対処が難しいことも多いでしょう。
学者の視点
ヒトとそれ以外の霊長類の大きな違いは何か?という点で、ヒトは技術を集団で記憶し伝承することで身体能力の一部を外部化してきた点に着目した本。
合理的な判断能力では人間はチンパンジーに負けるそうですが、人間は特に他人を模倣する癖がついていて、合理的な判断をせずに他人を真似るケースが他の霊長類より多いそうです。単独では狩りもできませんが、先人が鏃の作り方を伝授してくれるので集団としては強くなる、というモデルで人間は生き残ってきたようです。
例えば、複雑な調理工程をしないと毒素が抜けない食料品を食べてきた民族では、化学的な理由を理解をせずに”昔からこうやってきた”という調理工程を守らないと死んでしまうので、所属集団のルールを守る能力というのは死活問題になってきます。そういった人間の特徴を踏まえると、どれほど村八分が気持ち悪い風習に見えたとしても、村八分こそが人間が生き残ってきた強みであったのであれば避けようがない本能だ、ということが理解できるでしょう。
教養本としても面白いですが、チームに伝承しないスーパーマンが多い集団よりも、そこそこの能力ではあるが他人に伝承できる人が多い集団の方が、数世代経った後のチームとしての技術では後者の集団の方がスキルアップしているというモデルは企業体にも応用できる話ですし、”他人から尊敬されている火を尊敬したくなる(某本の”錯覚資産”)ことは人間の本能である”ということがわかれば、著名人に推奨して貰うと何故商品が売れやすいのか?といったプロモーションの経験則にも納得感が出てきますし、応用範囲の広い本です
ライトな本
どちらかというと上記2つの本を読んでからの方が良いかもしれませんが、もっとテクニック論に寄った本としては、藤田田氏の本や、瀧本哲史氏の本もとても参考になります。
- ジャンル: 本・雑誌・コミック > 人文・地歴・哲学・社会 > 宗教・倫理 > 倫理学
- ショップ: 楽天ブックス
- 価格: 1,617円
藤田田氏の言う、みんなに憧れられているお金持ちから商売を始めろ!という指摘も正に人間の本能に従うと正しいジャッジですし、瀧本哲史氏の紹介する人が協力したくなるパターンについても、如何に自分が集団に認められているか?大切にされているか?を気にするのは人間が必要な生存本能であって、決して承認欲求に溺れた人が単純に愚かな人ではなく、みな平たくそういう気質はあるものだ、と理解することができます。
人の心が動くポイント
特に、テクニック論的な藤田田氏と瀧本哲史氏の本を読んで感じるのは、人間社会の原動力の多くは、合理性よりも情動的な意思決定ではないか?という点、ごくごく一部の”人気のある著名人”同士のコネクションで社会が動いているのではないか?という点です。
顕著な例は生き残った楽天と巨大化しそこなったライブドアグループで、経団連の偉い人に仲間だと思って貰えたかどうかで結末は変わりました。別にライブドアが球団を買っていてもおかしくなかったのでしょうけれど、偉い人に筋を通さずに行ったことで、味方が現れませんでした。 他にも瀧本哲史氏の本に出てくるのですが、「どうしてもこれを私はやりたいんだ」という熱意が伝わってJALの音声コンテンツに採用されたベンチャーが”JALに採用された’実績”を引っさげて、信用力を固めていった事例の紹介もわかりやすいと思います。この場合の説得はたまたま熱意ということでしたが、合理的な判断だけの連続であれば追い払われていたことでしょう。
という本も非常に面白いエピソードです。スポーツ界のフィクサーのような数人が大きなイベントのお金の流れを決定づけています。
これらはあくまでも例示に過ぎませんが、「アイデアを思いつく人は無限にいる」「実行する人は少ないがそれでも沢山いる」「やり遂げられた人が少ないのだ」とはよく言いますが、重要な局面で非合理的なジャッジをどれくらい乗り切ることができたか?ということが重要なのではないかと思います。
合理的な判断ではない意思決定をAIが促進できるようになっとき、始めてAIが「ヒト」に近づいたと言えるでしょう。合理的な判断のサポートをしているうちはチンパンジー止まりということかもしれません。