広告/統計/アニメ/映画 等に関するブログ

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広告代理店社員にとっての古典

最近広告界隈で非常に良いと思う本に何冊か出会いましたが、どの本をみても言及されている名著・古典というものはあるものです。営業職・マーケッター職・クリエイター職、いずれのセクションの配属であっても、広告主と最低限同じレイヤーで話せなければ相談相手とは思って貰えないので、早々に読んでいた方が良かったなぁと後悔したことがあるものもあります。

広告業界の古典4冊

オグルヴィ「「売る」広告」』

一般的に言われていることはほぼ全てこの本で網羅されていると言っても過言ではありません。

「タレントを不用意に使うな、商品をちゃんと売れ」といった、広告主にとっては当たり前のことなのですが、広告代理店側にはミーハーな人やいい加減な人が集まりがちなので、ただ単に好感度は高いけど全く商品が売れることには貢献しない広告クリエイティブというものを作ってしまいがちです。本書で彼が述べていることは常に意識した方が良いでしょう。*1

という本もあり、この本も刺激的なのですが、有名なビートルの広告についてなど、事例が多いのは『「売る」広告』の方ですので、それの方が実践的かつ優先度は高いです。一方で、30代までは毎日休む間もなく勉強している筈だ!というお言葉は確かこっちの本だったのではないか?と思いますが、休日ちゃんと本を読もう!と思いなおしたのは彼の言葉がきっかけです。

シュガーマンマーケティング30の法則』

ダイレクト広告系の人ですが広く応用できる上に、本質的なことは既にこの時代に議論しつくされているのですから、先人の知恵を借りるべきでしょう。

「顧客はまず商品を感覚で納得し、その後に理屈を求める」などは、今や行動経済学のシステム1、システム2などで発見されたことかのように言われていますが、本書で既に述べられています。商品のベネフィットを考えるのは出発点としては重要ですが、感覚的な判断、或いは情報に基づく直観というもので先に買う買わないは決めてしまうので、感性は大事だということです。

例えば、iPhoneは使い易いのだ、洗練されているのだ、と言い張る人は多いでしょうけれど、使ってみると今のAndroidの方がUIは使い易いですし、何よりWindowsと最悪の愛称であるiTuensから解放されるだけでも随分とストレスフリーです。でも多くのiPhoneユーザーにとって、いくら理屈でAndroidをすすめられても、直観的な広告の美しさでiPhoneをスマートに感じている人は、心は動かないでしょう。

『目標による広告管理』

通称、DAGMAR。日本ではややマイナーなのですが、これを読んだことがない人(本書の内容を会得していない人)は、広告のマーケティングのスタート地点に居れていません。

新版 目標による広告管理―DAGMAR(ダグマー)の新展開

新版 目標による広告管理―DAGMAR(ダグマー)の新展開

質と量を別々に管理する、より細かくいうと、広告クリエイティブによる態度変容の効果と、メディアによるリーチの効果とを別々に把握し、評価する、という話です。科学的アプローチができている人にとっては当たり前のことかもしれませんが、文系出身者が大半を占める広告業界では、これができていない人がとても多いのです。

特に重要なのが、「ターゲットを明確にし、具体的に何人にアプローチするのか?をプランニング時点でちゃんと決めろ」という指摘です。広告賞を獲りたいという欲求が強いクリエイターは、ついつい「とても面白い企画かもしれないけれど、それはリーチしないよね?」という企画案を出しがちです。或いは、マーケティング職でも、そのメッセージ・コンセプトは正しいけれど、もっと予算があるときにやらないとダメではないですか?というコアメッセージを作りがちです。広告主は、幾ら投下しどれだけリターンするか?を考えているのです。

『急に売れ始めるにはワケがある』

どちらかというと社会心理学的な本です。

急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則 (SB文庫)

急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則 (SB文庫)

六次の隔たり」についても詳細に分析されています。バズだ!バズだ!と言いながらも、実はちゃんとコミュニティどうし横断して広める人がいないと途中で途切れます。バズったからいいや!程度にバズマーケティングを捉えている人は理論から見直した方がよいでしょう。

最近の良い本

この数年で良かったなと思う本です

『確率思考の戦略論』

元P&Gの人の本で、とても参考になります。

ディリクレ分布をディリシュレーと呼んでいたり、独特なところはありますが、広告を幾ら投下すればいいのか?という基礎的なことを考える上で重要です。広告代理店側は、広告主に「先ず予算を決めて下さい」とマーケティングのスタート地点で協力することを避ける場合がありますが、必要な予算とリターンがいい加減に前年比で決まってしまっていては、全くマーケティングにはなりません。

数学的なところがあって難しい本ですが、それは専門家に任せるとして、「幾らかけて、いくらリターンがあるのか?」は常に意識しておかないと議論がかみ合わないでしょうし、報告書も作れません。アイデアはよかったけど、予算が少なかったですね!とキャンペーンが終わってから報告することに何の意味もありません。

『広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい』

ネット界隈では刺激的なことを言う人で有名な方が共著ですが、この本はかなりしっかりしています。

『DAGMAR』や『確率思考の戦略論』ともかかわってくる話ですが、一体何人にリーチさせるのか?によって、取れる手法というものは変わってくるのです。極端な話、日本人全員に知ってもらわないと目標数を到達できないぞ!となったら億単位の費用をかけてテレビスポットを打つのは外せないのです。ネットでちょっとバズるPR動画を打つのでは足りません。商店街を流行らせることと全国のスーパーマーケットに配架される商品を売ることは別次元です。そういう視点で施策を俯瞰し、予算感をイメージするには本書は最適でしょう。

マーケティング・サイエンスのトップランナーたち』

広告代理店がなぜ統計的知識が必要なのか?については、この本が一番良いかもしれません。

統計畑からマーケティングに手を伸ばしてきた人は、ブランディングなどの基礎的な問題点の視点が抜けていて、広告でA/Bテストをしましょう!といった小さな視点でしか議論できないのですが、本当の使い方は本書のように、マーケティング課題に対してどんな手法があれば解明できるのか?という知識です。

なかなかしっかりしている本で、「安心感があるというのは特徴がなくなってしまった商品が持たれるイメージだ」という点も正しく喝破しています。

例えば、本来は差別化し、セグメンテーションとターゲティングとポジショニングをしなければならないときに、「安心」「やさしさ」という言葉がアンケート回答から多かったので採用してしまう、というのは失敗なのです。クラスの中の全く目立たない子が「良い人だよ」と言われるのと大して変わらない状態で、これでは強く記憶されません。

そういった統計屋にはない視点が持てるという意味で本書はとてもバランスが良いですし、一方で確率的潜在意味解析を使うといった比較的最近の話題も網羅されています。

*1:ちゃんとしたクリエイターは著名だからタレントを使うのではありません。大前提として演技ができる役者でないとフィルムとして成立しない、という観点や、企画の中身とキャラクター性が重要な場合にタレントを使います。