美術館の行列とターゲット層について
とある美術展の行列が凄い。そしてそのことに端を発して幾つかコメントが流れてきているうちに、ふと、今のマーケティングにおけるターゲティングの限界を思い出したので、忘れないうちにメモをしておきます。
若冲展の人気が凄い
ツイッターでも行列の写真が回ってきていて本当に凄い人気です。
とあるツイッタラーさんの指摘
美術館というものは、要するに「他人のお墨付きがなければアートかどうか判断できないバカが行く場所」であって、考えても見ろよ、中世~ルネサンス時代の貴族達はその時代を生きる巨匠達に夢中だったのであって、ローマの美術家達に夢中だったわけじゃないだろ。
— 砂鉄 (@satetu4401) 2016年5月14日
これは、”美術館はもっとカジュアルになれないのか?”という若冲とは異なる文脈で語られていたのですが、言い得て妙でもあります。*1
日曜美術館で放送されると美術館が混むという現象に最近拍車がかかっている気がします。
例えば”クラシック音楽”について
この本に詳しいのですが、西洋で「クラシック」というジャンルが成立する経緯に、元々貴族だけが楽しんでいたジャンルの音楽をブルジョワ階級が楽しむようになったので過去の権威として”クラシック”というジャンルを作るようになった、というような指摘がありました。*2
芸術の消費において、誰かのお墨付きを得ることで消費する、というのは今に始まったことではありませんし、文化事業であると同時に興行でもある展覧会は、何も一部の理解者の為だけに閉じたイベントである義理もありません。
ところで、ターゲットのマインドがわかったらターゲティングできるのだろうか?
「他人のお墨付きがなければアートかどうか判断できないバカ」が美術館の客層なのかどうかは一旦、置いておいて、例えば仮に美術館の客層を以下に分類したとします。
1)余暇とお金がある高齢者層でNHKで特集された”間違いのないコンテンツ”を人生経験として見に行く。
⇒ せっかく凄いのが来てるんだから見ないともったいない、と思って見に行く。
2)ちょっと無理して背伸びをしたいスノッブ。
⇒ ちょっとマイナーな作品を見に来て良さがわかる自分がかっこいい。
3)美術の学生で勉強にきた。
⇒ 構図やタッチ 本物を見ないとわからないことがある!
4)美術鑑賞が趣味なので暇さえあれば行く。
⇒ 今日はリフレッシュした!
例えば、
印象派展のようなものであれば、1)のターゲットがメインでドル箱でしょう。国宝系もそうだと思います。
一方で新進気鋭の建築家、などであれば、3)や4)が手堅いターゲットで、後は2)をどれだけ連れてこれるか?にかかってくると思います。
では上記のような消費マインドを元にしたターゲティングをすることはできるのでしょうか?
せいぜいデモグラフィックと興味対象程度でしか絞れない
GoogleAdWordsのターゲティングでは、せいぜい
・デモグラフィックと呼ばれる性別・年齢
・特定のジャンルのサイト = コンテンツターゲット等
・特定のジャンルに興味がある人 = トピックターゲット等
・競合や特定のサイトをよく訪問している人 = カスタムアフィニティ
といった程度でしか区切ることはできません。
ましてや2)のような、ちょっと背伸びしたいスノッブを対象にするのは、とても難しいのです。
「他人のお墨付きがなければアートかどうか判断できないバカ」をターゲットとしても、彼らを狙って広告を打つことはできません。
だから実際のターゲティングは今でもマス
ソーシャルゲームが大量にTVCMを打つのも、結局予算があればそれが一番効率が良いからですし、映画の宣伝でタレントの吹き替えを立ててTV番組で露出をするのも同じです。
映画なんて半分以上の人は滅多に行かないのですから、マスマーケティングである必要はないのですが、その「たまにしか行かない人」を呼んでこないと成立しない、場合は、マス広告に頼らざるを得ないのが現状です。
でもインサイトをついたマーケティングにはしたい
美術館に来る理由が”TVで言ってたから”であろうと、”ノルマ的に行っていることが大事”であろうと、何らか満足して帰って貰えるなら、彼等が何を期待して来訪し、何を得て帰って行くのか? ということは意識して展示内容を考えたり、広告を考えたりするのは、とても重要なことではないかと思います。
そこで新しく美術館に来る理由が増えたら、層も広がります。
できもしないターゲティングで頭を悩ますことは無駄かもしれませんが、ユーザーインサイトを分析することはとても重要だと思います。
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最近良かった展覧会
因みに最近の自分のヒットはこの展覧会です。
例えばイタリアの風景を描いた風景画には、こんな背景があります。
絵が綺麗とかバランスがいいとか、そういう話以外にも歴史的背景が知れたりする展覧会で、とてもおもしろかったです。