広告/統計/アニメ/映画 等に関するブログ

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この先の”広告代理店”はどうなるのか?

 これからの広告・マーケティング業界の行く末については、様々な論考が既にあり、それらを参照すれば凡その予測はつくだろうし、誰も予想し得ない新メディアの登場は、もはや誰にも想像はできないことで、妄想するだけ時間の無駄だろう。
 一方で、その中でも”広告代理店”がどうなるか?について業界向けに面と向かって記載があるのは、まだ少ない。
 自分の考え方を整理する為にもまとめてみた。従って、”これは違うくない?”、”根拠は?”と思った方はご自分で新たに調べて知見を広げて頂きたい。

今後の広告業界について
 僕がつらつら書くより以下の本を読んで欲しい。忙しい場合は特に下の2冊から。
明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 (アスキー新書 045)⇒良いメディアを買い付けておいてから”さぁどう使っていこう?”と考え始めた時代から、案件別にどのメディアを使って何を伝えて行くか考えなおすべきだ、と最初に一石を投じた本。
次世代マーケティングリサーチSNSが出来てから”ソーシャルリスニング”の重要性を問いてツールを売る企業がある。だが実際には、コールセンターからのフィードバックや現場の行動観察など、仮説を立てる為に重要なことは一杯あり、この10年で急速にその手法は増えた。
次世代コミュニケーションプランニング⇒戦略PRが流行ったり、もうTVCMはダメだ!という言説が流行った頃、最も整理されていたのがこの本。ユーザーの勝手広告の米国の事例は、今では日本のニコ動のゲーム実況や商品開封など流れが起きている。思考の幅が広がる本。
広告ビジネス次の10年⇒現時点で最も整理されている本。総合広告代理店は残るが、御用聞きレベルの営業は要らなくなるという指摘があるなど、広告の未来を明るく語るお気楽なライトな本たちとは一線を隠す。
広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。⇒タイトルは刺激的ですが、認知を広く一般に獲得しなければならない商材にはやはりマス広告に頼らざるを得ない。商売規模によって考えないと行けないのだ。

広告業界はどうなっていくのか?
 上記の本を踏まえて個人的な業務上の経験も踏まえると今後は以下のようになっていくと思われる。

TV広告の相対的優位性は変わらない
 特にテレビスポットの地位は不変。現時点では広く一般に強制的に認知させることが出来る手段はテレビCMしかない。
 更に、増税前の駆け込み需要以降、この2〜3年テレビスポットの発注は一部お断りが発生してしまうほど引き合いが来ている。全体的な視聴率低下による在庫減少もありながら、増税前の家電の駆け込みや、毎年何かしら大量出稿して一気に枠を買う新しい広告主(消費者金融の過払い請求、ソーシャルゲームグルーポン、グノシー/アンテナetc)が出てきているし、最近はベンツやボルボなど以前は余りテレビ広告を打たなかった企業がガンガン打つようになっているケースもある。

動画のプレミアム広告も取り合い
 TV広告の地位は不動だが、昔のようにそれだけやっていれば安心という時代は終わった。20代の若年層は昔ほど暇ではないのでプライムタイムも後半の23時〜25時位しかテレビを見ない。勿論、SNSやネットサーフィン(動画視聴等含む)に割く時間も増えているし、イベントごとなど”体験”に消費をシフトしている。
 その中で、Yahoo!のトップページやYouTubeのTrueViewといったプレミアムな広告枠は、それで充分に若者に到達するというわけではないのだが、今残されている効率的な伝達手段はそこだけなのだ。

新聞は高齢者メディアに、雑誌はニッチメディアに
 新聞は読者年齢層を見ればわかる通り高齢者に特化した媒体。50代以上はもはや習慣が大きく変わらないので、彼等には変わらずアプローチできる。
 雑誌も嘗てはマスメディアで、大衆誌の表4をナショナルクライアント用に代理店が買い取っていたものだったが、今は、専門誌など、特定のターゲット層にアプローチする為に残っていくだろう。

所謂”戦略PR”は増える
 調査PR(有名なのは女子高生はルーズソックスにニーハイソックスがモテる、という調査結果を渋谷で地道にアンケートの体裁で広めていった15年近く前の事例をイメージして欲しい)など、あの手この手を使い、手を替え品を替え、事前に需要を喚起する方法は開発されていくだろう。供給不足で有効需要の方が多かった時代は終わり、大量生産大量消費モデルの企業は、生き残る為に、需要を何らかの形で喚起し続けていくしかないのだ。
 プロジェクションマッピングが一瞬流行って消えたように、PRというよりイベントやってTV取材に来てもらおう!系のプロモーションもまだまだ色々出ては消え、出ては消えする。

コミュニティの維持にもっと真剣に取り組む
 これはそうなる、というより、そうなっていくべき、というレベル。
 古くからあるのは、ベネッセコーポレーションウィメンズパークや、昔よく引合に出されたハーレーダビッドソンの定期ミィーティングなど、最近で言うと、ネスカフェのアンバサダー。コミュニティを形成し、商品単体のベネフィットだけでなくて、誰かと繋がっていたいという人間の欲求の方も刺激する。商品に差が無ければ、次はコミュニティで差をつけることになる。
 勿論、サポート体制が良い所や問合せ対応が親切なところFAQが分かり易い所、知りたい情報が分かり易いWebサイト設計などのサービス部分も向上させないと行けない。
 一度、良い循環に入れば、固定ファンからの口コミほど安定的な消費者が出来るものはない。固定ファンの満足度を向上させコミュニティを維持することがとても重要になってくる。そのサービス向上の一つとして、 レイ・イナモト:「広告の未来は広告ではない」氏が指摘するように、或いは、猪子さんが注目されるように、広告より体験が重視されていき、広告宣伝費以外にテクノロジーにマーケティング目的でかけるべき予算が増えていく。

広告代理店はどうなっていくのか
 本題。この視点で書かれている書籍は、広告ビジネス次の10年以外には今の所まだみかけたことはない。広告宣伝業界の動向とこの先 代理ビジネスが生き残れるかは、リンクはするが別次元の話でもある。

TVタイム・TVSPOTは言うほど儲からない
 より正確に言うと儲かるチャンスが少なくなっていく。どんなにテレビ広告の地位が不動だと言っても、絶対的な影響力は下がっているのだから、売り手市場だった時のように、良い枠を抑えておいて高値で売る、というビジネスモデルは維持できない。
 これからは広告代理店ではなく広告会社だ、と言われ始めた辺りからTV広告の利益率は低下している。仕組みは家電量販店と同じで、同じ商品を複数の代理店が購入できる(つまりTVSPOT等)と、利益率よりも受注を取ることに専念して値下げをする企業が出てくる。今では、見積競合で値引き合戦が定常化しているケースもある。年間で大量出稿する広告主が出稿ランキング等で紹介されることもあるが、受注した代理店が儲かっているかは実はランキングではわからない。
 低利益になりにくいケースは「1.別の理由で担当代理店制をしいている」「2.通っている競合代理店が少ない。」「3.自社の買切枠が売り手市場」などに限られる。比較的大手なのにいつも利益率が悪い所は、恐らく3番の商品が圧倒的に少ないのだ。
 ただし、テレビ媒体というのは額が大きいし手間が少ない。今も昔も大手広告代理の収益の柱はここしかない。だが、その収益がジワジワと低下するのは確実なのだ。

専業代理店は強い
 ここ最近、Web専業代理店は、TVと連動した提案ができないからダメだ、という話がホットだ。
 もし代理店に丸っとお任せするね!後は宜しく! というタイプの企業であれば、総合広告代理店にチャンスが回ってくるが、最近の広告主は、結構自分たちで出来ることは自分たちでやる。既に、自社の既存商品だれば、TVの投下量とWebの投下量の配分から凡その自社にとってのベストな割合を知っていて、最終的な買い付け時により安く買う為に、見積競合させる。直取引できるメジャーな媒体とは直取引するし、専業代理店の方が総合広告代理店より若干値引き幅があるので、専業代理店に落ち着くことが多い。
 そしてこれは、交通広告や雑誌広告でも同じ。

制作業務はそもそも儲かっていない
 広告代理店には、ミーハーな人が多い。広告代理店の人がTVCMのプレを獲得刷るために徹夜で企画案を仕上げたり、新しい技術が誕生しては取り敢えず提案に入れてみたり(LINEとか!)するのは、派手なことが好きだからだ。(厳密に言うと彼等は広告やマーケティングが好きなわけでもない。意外とセミナーにも行かない)
 しかし、制作業務は、「オリエン⇒企画MTG⇒裏取り⇒提案⇒やり直し⇒再提案⇒迫り来る納期⇒いつまでも細部を詰めることに快感を得始めるプロジェクト...」と人件費の時給を業務の利益率に入れたらヘタすると赤字になっている案件は多い。これはTVCFに限らず、Webプロモーションでも店頭イベントでも、調査業務でも同じ。その気になれば、どこまでも細部を詰めて行くことが出来るからだ。
 これからはマスじゃない、と言っても実はその領域に本腰で突っ込んでも将来的には収益にはならない

今後は客先にどんどんマーケティング知識がたまる
 意外なことに広告代理店は、情報クリエイティブが苦手だ。PRが重要です!と提案上、言うことはあっても、実際に情報の出し方の設計が出来る人は本当に少ない。
 どのタイミングで、どういうターゲットにどういう情報を投げて、どういう反応をして、そこからどういう影響があって、、、、所謂カスタマージャーニーマップを思い描ける人が少ない。というよりも、そこまで任せて貰えるケース自体が少ないので、知見(データ)がたまっていないのだ。キャンペーンの特設サイトですら、Google Analyticsを共有させて貰うケースは少なし、最近は調査も客先側が一括して管理するために直発注していることも多く、広告代理店側には反響のデータが残ってない。
 オウンドメディアにたまっていく生活者のデータを取得できない、というアドバンテージの差が広がる限り、”スペースブローカーからコンサルティング営業に!”は画餅である。結果、広告代理店には調整弁として入ってもらっていた方が良いケースだけ入ってもらう、という方向にシフトしていく。

まとめのようなもの
 アンバサダーにせよ、SNS上の発信にせよ、広告主側でできること、やるべきことが増えていて、これからの広告宣伝業界で重要なことがどちらかというと広告主が自ら行うべきことが多い。確実に逓減していくマス媒体の利益がまだ残っているうちに、新しいことに投資しない限り総合広告代理店が今の事業規模を維持することは難しい。
  ・サイバーエージェントクラスの本気のメディアを持つ
  ・電子クーポンや通販広告システムなどプラットフォームやツールを開発し提供する
  ・Googleのようにユーザーデータを集める手法兼サービスを構築する
  ・ディスプレイネットワークとRTBの組合せなど、手売りでは低利益のものを効率化する
 など、様々な可能性があるものの、今の所、現実的な解はどこも見つけられていないように思われる。Tevoが登場して、これからの広告代理店ビジネスはヤバい!とわかってから10年経ったのにまだ見つけられていない。
 本来、広告コミュニケーションのプロを名乗るのであれば、もっとユーザーの動向を取得することに力を注ぐべきだったと個人的には思う。Google先生がやっているようなことを。長年1つのビジネスモデルに頼ってきたばかりに、リスクを伴う新しいプロジェクトに果敢に挑戦することが出来なくなっていたのだと思う。